21 束の間の挨拶
参列者に学生が多かった為か、ある程度の時間が過ぎると、人も疎らになり始めた。
喪主であるゆめの両親は悲痛な表情を浮かべたまま、葬儀屋により親族控え室へと案内されていた。
コンコンッ
ノック音に彼らは顔を上げた。
「小父様、小母様、己緒です」
「どうぞ」
入室を促すと、ガチャリと音を立てて、見慣れない喪服に見立てた黒のワンピースを着た己緒が静かに微笑み立っていた。
「己緒ちゃん、あの子の為に有難う」
「いえ、お気になさらず。これは私の為でもありますから」
頭を下げた彼らに己緒は穏やかに笑み、そう言った。
「それよりも、ご紹介しておきます。理緒は御存知でしたよね?彼が跡部景吾。私の幼馴染みで、今回も色々と世話を焼いてくださってますの」
「跡部景吾です。柄塚さんのことは己緒から聞いています」
「跡部…というと、跡部財閥の?」
「えぇ。彼、跡部財閥の一人息子なんですよ」
まるで自分のことのように己緒は自慢げに笑った。
その様子に景吾もまた微笑みを浮かべる。
「協力してくれて有難う、跡部君」
「俺は己緒に協力しているだけですから」
「そう…でも、有難うね」
涙ぐみ礼を言うゆめの両親に景吾は年相応の顔で照れくさそうに笑うのだった。