19 胸に抱いた拳
「やっと死んだのね。長かったわ。貴女の場所、あたしが大事にしてあげるから」
そう言い残した少女の背中を己緒は見つめていた。
「佐倉愛美、貴女だけは赦せないわ」
ギュッと握り締めた拳を胸に抱えるように抱き、己緒は憎悪を感じさせる声音で呟いた。
それに寒気を覚えたのは、他でもない己緒の背後に立っていた理緒と景吾だ。
「己緒義姉さん」
「理緒、人を愛することに時間など関係はないの」
「えぇ」
「同じように、人を憎むことも時間などは関係ない。私は彼女が、佐倉愛美が憎いわ」
その声は先程のような憎悪を感じさせるものではなかったが、淡々と低く言い放たれた。
「さぁ理緒。柄塚の小父様小母様に御挨拶しなくては」
「はい」
「無理を言って協力していただいたもの。御挨拶はきちんとしなくてはならないわよね?そうだわ、景ちゃんも一緒に来てくれるかしら?小父様達に紹介したいわ」
「あぁ俺も行く」
景吾の返事にニッコリと微笑んで、己緒は歩き出す。
その半歩後ろを理緒が歩き、理緒の一歩後ろ辺りを景吾が歩いた。