13 神の子の考えは予測不能



「幸村に頼まれたのって今日だっけか?」


部活を始めるために着替えていた丸井が呟くと、全員がその手を止めた。
全員と言っても、掃除当番であったり委員会であったりと、まだ部室に来ていない者もいるのだが。
とにかく、その場にいた者全員が呟いた丸井を見つめていた。


「柄塚さんでしたね」

「見たこともねー奴の通夜なんか行ってどうすんだ?」

「幸村君も何か考えがあるんでしょう」


柳生がそう言った瞬間、部室の戸が開いた。


「ちわーッス」

「赤也遅ぇよ」

「でも、副部長まだっしょ?」

「弦一郎が委員会だと知っているだろう、赤也」


戸を開けた体勢のままだった切原の背後に逆光を背負い柳が立っていた。
それに驚いたのは何も部室にいた者だけではない。
背後に立たれた切原が一番驚いていた。


「柳先輩…」

「早く入れ」

「………はい」


静かに言い放たれた言葉に逆らう気にもなれず、切原は部室へと入り、自分のロッカーを開く。
部室内に設置されたベンチに座り、着替え終わった丸井は充電とばかりにガムを口に放り込む。


「にしても、仁王君は遅いですね」

「あいつ、掃除当番でもねぇし、どっかで告白でもされてんじゃねぇ?」

「うわ〜、またッスか?」


時計を外しながら呟いた柳生の仁王を心配する台詞に丸井が返せば、切原が口を挟んだ。


「でも、フッちゃうんスよね、仁王先輩」

「本命がいるようだからな」

「マジかよ!柳」

「そういうデータがあるというだけだ」


言明は避け、言葉を濁しはしたものの、柳の言葉により、仁王に本命がいるという話は丸井と切原の中で真実となっていた。
事実、柳のデータに本命がいるらしいというものはあっても、誰であるかは判明していない。
ただの断る際の常套句である確率もあった。





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