12 想い馳せる
Veiw:Haginosuke.T
ジローの口から己緒の名前を聞いたのは久しぶりだった。
己緒に一番懐いていただろうジローは、己緒があの家から消えてしまってから暫く塞ぎ込んでいた。
彼女を夢見るかのように、寝る時間が格段に増えた。
それを知っている俺や宍戸、岳人はジローが寝ることに文句を言えない。
多分、それで精神を保っているようなものだ。
あの頃のジローは己緒に依存していたと言ってもいい。
学校に居る時間より、己緒の家に居るときの方が明らかに楽しそうだった。
「己緒と理緒ってどこか似てるよね」
「言動とか」
けれど、彼女の名前は己緒・リッツベルグであり、ファミリーネームは阿佐ヶ谷ではなかった。
そう分かっている筈なのに、俺達幼稚舎から上がってきた己緒を知る人間は少なからず理緒に己緒の面影を求めていた。
「己緒に会いたいね…」
「会いたいよ」
この会話を聞いている人物がいるなんて知らずに、俺達は青い空を見上げ、己緒に想いを馳せていた。