11 リンクする想い
芥川は授業に出ず、いつものように屋上で惰眠を貪っていた。
彼の見ている夢は優しいものだった。
大好きだった少女が傍で笑っていた頃の夢。
現実では有り得ないそれを芥川は寝ることで補っていた。
「ジロー、起きてる?」
控えめな幼馴染の声に芥川の意識はゆったりと覚醒に向かう。
「萩だC…」
「おはよう」
「どうしたの?」
授業中、芥川が教室にいない時は屋上にいるというのは幼稚舎から氷帝にいる人間の中では暗黙の了解となっている。
教師でさえも、芥川が授業に出ていなくとも、部成績と試験結果から口を出すこともない。
「今日、理緒登校してきて良かったね」
「うん」
「その割にジローが不安そうな気がしてね」
そう言って苦笑を浮かべた滝に芥川は少し笑う。
「理緒を見てっとさ」
「うん」
「己緒を思い出すんだ」
己緒、それは彼らにとって大切な思い出の中でしか会えない少女。
氷帝生ではなかったが、氷帝に隣接した跡部の家に負けないほどに大きなお屋敷に住んでいた彼女は、体が弱いのか学校には行かず家庭教師に勉強を教わっていた。
彼女は広い庭からいつも氷帝生の登下校を見つめていた。
そんな彼女に好奇心で話しかけたのは当時から好奇心旺盛だった芥川と向日だ。
それから幼稚舎の卒業まで、彼女とは友達だった。
いや、今も尚、芥川は友達であると思っている。
自分達の知らないことを知っていた博識な少女から沢山のものを教えてもらい、芥川たちもまた友というものを知らなかった少女に沢山のことを教えることが出来た。
「萩」
ゴロンと横たわっていたジローは仰向けになり、空に向かって手を伸ばした。
「理緒は、己緒みたいに居なくなったりしないよね?」
その問いに、滝は答えられなかった。