10 優しいあの子が想うこと
理緒がコートでレギュラー陣に囲まれている頃、己緒は神奈川にある幸村が入院している病院にいた。
「久しぶりね、精ちゃん」
「己緒っ!!」
何の知らせもなく突然自分の病室に訪れた己緒に幸村が驚きの声を上げる。
「この間は義弟(おとうと)がどうも」
「理緒くん、なかなか面白い子だよね」
「でしょ」
クスクス笑いながら、己緒はベッドの脇のパイプ椅子に座る。
「仁王がね、君に会いたがっているよ」
「ハルが?」
「丸井達は覚えてないだろうけど、仁王は君をしっかり覚えてる」
幸村の言葉に己緒は少し悲しげな表情を見せる。
「本当はね、立海は巻き込みたくないの」
悲しげな表情のまま己緒はポツリと呟いた。
「氷帝も。どこも巻き込みたくなんかないのよ」
「己緒?」
「だって私の身勝手な想いなんだもの!ゆめが復讐なんて望んでいるわけないもの!!」
一息で叫んだ己緒を幸村はそっと抱き締めた。
「あの優しい子がそんなこと思うはずがないのよ…」
抱き締められたまま己緒は小さく震え言葉を落とした。
「ねぇ己緒」
腕の中で震える己緒に幸村はできるだけ優しい声音で呼び掛ける。
「巻き込みたくないっていうのはわかるよ。でも、俺達は己緒に巻き込まれたいんだ」
「精ちゃん」
「己緒のやりたいようにやればいい」
フワリと幸村の手が己緒の頭を撫でた。