8 絶対零度
幸村からの一通のメールにより真田ら立海男子テニス部のレギュラーは全員幸村の見舞いに来ていた。
「すまないね」
「いや」
不機嫌さえ窺える幸村の不自然なまでの笑顔に、僅かながら真田は引きつった表情で言葉を濁した。
いつもながらの光景だと桑原、丸井、切原、柳生の4人は心の中で真田にエールを送った。
「精市、そのくらいにしておけ」
「そうだな。本題に入ろう」
柳の静止にあっさりとひいた幸村に仁王は違和感を感じていた。
さらに、いつもならここで柳が止めることも少ない。
「みんなにお願いがあるんだ」
「お願いッスか?」
「ある子のお通夜に行ってきてほしい」
通夜という言葉に全員が幸村に視線を合わせたまま固まった。
ただ一人、仁王だけは、柳の行動と幸村の言動に可能性を見出していた。
「俺はまだ病院から出るわけにはいかない。だから、俺の代わりに行ってきてはもらえないか?」
誰もが言葉を失っていた。
「誰の葬儀なんじゃ?」
「柄塚ゆめちゃん。青学のテニス部マネージャーだった子だよ」
この言葉に仁王は固まった。
昼に自分が立てた仮説を思い出し、仁王はなんともいえない感覚を覚えていた。
「柄塚?青学のマネって佐倉じゃなかったか?」
丸井が発した言葉はその場を凍らせるには充分だった。
丸井の一言によって幸村が絶対零度の笑みを浮かべたのだ。
「佐倉さんか」
フフッと笑った幸村は通夜の日程だけを告げて、全員を帰した。