4 笑みの下の怒り


「大丈夫かしら?」

「己緒」


その問いかけは5分に1回というペースで繰り返されていた。
世間一般で言う美男美女が見つめ合っているこの状況でされるにはおかしな問いかけだ。
何故なら、己緒の意識はここにはなく、幸村に会いに行った義弟である理緒に向かっている。


「己緒、本題に入るぞ」

「えぇ」


跡部の言葉に頷きはしたものの、己緒が本題に入る気配はない。
跡部も溜息は吐くものの、無理に本題に入る気配はなかった。


「ねぇ、景ちゃん…」

「なんだ?」


気だるげな雰囲気が一変、己緒の視線には剣呑な光を見せていた。


「佐倉愛美を知っているかしら?」


低められた声音は、己緒の怒りを表しているようだった。


「青学の、マネージャーだな」


ウザイ以外の印象が残らないような女だったが。と、続けた言葉に、己緒は一口目の前に置かれた紅茶を飲んだ。


「ゆめの仇よ」

「己緒」

「冗談だよ、景ちゃん」


そう言って笑う己緒の目は、笑っていない。
もとより、己緒の声音は冗談を言っているそれではない。


「ところで、景ちゃん。少し連絡を取りたい人がいるのだけれど」

「誰だ?」

「榊先生はお元気かしら?」


己緒は懐かしむように微笑んだ。


「監督か」

「氷帝の男子テニス部って、榊先生が顧問なの?」

「あぁ」


頷いた跡部に己緒は丁度いいとばかりに、机の上に置かれた跡部の携帯電話を指差す。


「今すぐ連絡をしてくれない?阿佐ヶ谷己緒が帰国したと」




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