3 束の間の笑み
静かな病室で理緒と幸村は見つめ合っていた。
だが、正しくは、視線を合わせていたに過ぎない。
「シナリオを聞かせてはくれないのかな?」
「俺の独断ではなんとも」
「己緒はどうして君をここに?」
その問いに理緒がニヤリと笑う。
「義姉さんが立海のテニス部と遭遇するのを避けるためです」
「ということは、俺以外に立海を頼る気はないってことか」
理解したとでも言うように呟く幸村に対し、理緒は先程よりも友好的な笑みを浮かべる。
「流石ですね、幸村さん」
「何がだい?」
「義姉さんの幼馴染みは伊達じゃない」
そう言い放った理緒に幸村は思わず破顔する。
その反応が面白くないのか理緒はムスッと拗ねた表情に変わった。
それが理緒が認めた証拠だとは知らずに、大人顔負けの理緒が見せた幼い表情に幸村は笑い続ける。
「理緒くん、少し世間話でもしない?」
「いいですよ」
「ホント?」
「幸村さんとなら楽しめそうなので」
きちんとした敬語を使う理緒と似ても似つかぬ自分の後輩を幸村は思い出す。
似ているとはとてもじゃないが言えないが、生意気さは比ではない。
「義姉さんの話と氷帝の話、どっちがいいですか?」
クスリと笑んだ理緒に意地の悪さを感じながら、幸村は後者を選択する。
氷帝の情報を引き出したい訳ではない。
ただ、そちらの方が面白そうだったのだ。
「先輩の私生活でもいいですかね?と言っても、ご期待に沿えるかはわかりませんが」
そう言った理緒の顔はどこにでもいる中学生の顔をしていた。