9 疑惑
View:Keigo.A
柄塚ゆめを見つめたまま、己緒は動かねぇ。
ガラスに手をついて見つめたままだ。
「精ちゃんにね、頼み事をしたの」
「幸村にか」
「立海には優秀なデータマンがいるから」
それが何を示しているのか、俺にはさっぱりだ。
ただ、己緒が幸村に頼んだ内容が、この柄塚ゆめに無関係じゃねぇってことは確かだ。
立海のデータマン、柳に対する己緒の評価は高い。
つまり、己緒が知りたいことは、金で動くような連中ではなく、柳のような通常の目を持つ奴でないと掴めないことだ。
「ゆめのお見舞いに誰も来ないのね」
「あぁ」
「痣だらけなのよ、この子」
痣だらけ。
それが示すのは、虐め。
柄塚ゆめは誰かに虐められていた。
「精ちゃんからの報告があり次第、青学に転入することになると思うわ」
「なんで青学なんだ?」
「ゆめは青学でテニス部のマネージャーをしていたの」
己緒の口から出た新たな事実に目眩がする。
青学とはついこないだ練習試合をしたばっかだ。
そん時に柄塚ゆめなんてマネージャーはいなかった。
居たのは、練習の邪魔しかできねぇうぜぇミーハーマネージャーだけだった。
「己緒」
「なに?」
ガラスの向こうしか見ていなかった己緒がこちらを振り返る。
「もしかしたら、だが」
「もしかしたら?」
「柄塚ゆめは填められたのかもしれねぇ」
自然と出た答えに、俺自身の口端が上がるのを感じていた。