6 眠る少女
神奈川県に近いがギリギリ都内にある病院の集中治療室前。
先程までいた老夫婦の姿はすでにここにはなかった。
「ゆめ、早く起きなさい」
己緒の声が静かな廊下に響いて、消える。
ガラス越しに眠る少女―ゆめの青白く不健康そうな顔には大判のガーゼが貼られ、痛々しい。
老夫婦―ゆめの育て親によると、真っ白な布団に隠れた身体には素肌が見えない程に包帯が巻かれているらしい。
己緒の予定では、留学からの帰国後、ゆめの元気な笑顔を見れる筈だった。
しかし、ゆめの笑顔を見ることのできない理由が帰国を早めることになるとは己緒でさえ予想していなかった。
「ゆめ、私は何もできないままね」
そう己緒が呟いた後、バタバタと足音が響いてきた。
足音はこちらに近付いているようで、それは2人分だった。
「来たわね」
ゆめに向かって微笑みを浮かべる己緒の表情はどこか堅かった。
己緒は2年近く顔を合わせることをしていなかった幼なじみの顔を思い出し、何故か悲しくなった。
大きくなった足音がすぐそばの角を曲がり、止まる。
「義姉さんっ」
そう己緒に呼びかけたのは、氷帝の制服を着て息を乱した理緒だった。