5 電話
ピリリリリリリッ
突如として部室内に鳴り響いた無機質な着信音に、全員の肩がビクリと揺れた。
携帯電話を探し出したのは、現在の話題の中心であった理緒だ。
「もしもしっ」
サブディスプレイに表示された名前を見たのだろうか、理緒は焦った様子で通話ボタンを押した。
「え?ちょっと、今どこにいるんですか?」
はい、えぇ、と、相槌を打っていた理緒が焦った声音で電話口に問いかける。
相手が居場所を答えたようで、理緒の目は驚きによって見開かれる。
「東京って、昨日まではあっちに居たんじゃないんですか?日本にはいつ?」
謎の電話相手にメンバーが首を傾げる中、理緒の声に跡部が驚きの表情を見せていた。
「理緒、アイツか?」
跡部の問いかけに、理緒は視線だけを跡部に向けて首肯する。
それに跡部は軽く溜息を吐く。
「今から行きますから、絶対に勝手な行動はしないでくださいね!」
仕方がないとでも言うような理緒の喋り方に一同は苦笑を浮かべるが、念を押すその台詞は彼が電話口の相手を大事にしているという事がよくわかるもので、同時に微笑ましくも感じていた。
ピッ
電子音を立てて切られた通話に、皆は注目していた視線を居心地悪げに、バラバラと彷徨わせた。
「あの、僕、急用ができてしまったので…」
「あぁ送ってやる。行き先は車で聞く」
「ありがとうございます」
しっかりと頷く理緒からは、先程の泣きそうな表情は消え去っていた。