涙が出ねぇ。

あんなに、俺を大事にしてくれて、俺に生きる術を教えてくれたみつきが死んだっつうのに、俺は泣けねぇ。

泣けなかった。

なぁ…なんでだよ………?

棺に収まったみつきの華奢な身体を見つめて、問いかける。

勿論、みつきから、返事が返ってくるわけじゃねぇが。

返ってきたら、返ってきたで、ホラーだ。

ホラー。

いや、でもな、みつき。

ホラーでもなんでも、もう一度、みつきに会えるんだったら、それでもいいかもしれねぇ。

だってな、俺はみつきになんにも恩返し出来てねぇんだぜ?

勤めてたホストクラブで、先輩と喧嘩しちまって、事務所に寝泊まりさせてもらってた俺は行くとこもなくて、路上で煙草吸ってた。



『一緒に来る?』



素っ気ない言葉だったけど、みつきが声をかけてくれたそれが、俺らの出会い。

自分の住んでいた部屋に俺を引っ張っていって旨そうな炒飯を俺の目の前に置いて、ニッて笑ったんだ。



『まぁ食べな』



言われて食った炒飯。

すっげぇ旨かった。

腹減ってたから、ガツガツ食って、中身のなくなっちまった皿を見つめとてたら、急に笑い出して、皿を持ってキッチンに行ったと思ったら、ちょっとして、また山盛りの炒飯をくれて。

最初にされたのは、餌付けだったな(苦笑)

何の仕事してんだ?て訊いたら、何でもない顔して、



『人殺し』



って、答えたのをまだ覚えてる。

怖くないのか?て訊いたら、



『慣れた』



なんて返ってきて、 ボロボロ泣いたのも、よく覚えてる。

あの日から、俺はみつきの代わりに涙を流してた。

みつきの昔馴染みだった奴が死んだ時も、みつきが俺になんでこの仕事に就いたのか教えてくれた時も、みつきは絶対に泣いたりしないで、俺がボロボロ泣いたんだ。

まだまだいっぱいあるぜ?

みつきと一緒に居たのは、2年もなかったけどな、いっぱいいっぱい思い出があんだよ。

みつきにとっちゃ、何でもない事かもしれねぇけど、俺にはみつきとの大事な大事な思い出だから。

みつきの白い頬を、震える手でスルリと撫ぜた。

伝わるひんやりとした冷たい感触に、あぁ死んじまったんだと、今更ながらに思う。

本当は言うつもりなんてなかったんだ。

ずっとな、一緒に居たかったから、絶対に言わねぇでおこうって思ってた。



「なぁ…みつき、知ってたか?」




みつきの頬に右手を添えて、顔を近付けた。



「俺、みつきが好きだったんだぜ?」



一瞬だけの、触れるだけの、キスをした。






頬を伝ったのは、涙なんかじゃない。

もぉ泣かねぇ。

次、俺が泣く時は、みつきの仇とった時だ。





覚えている、その日
ファンタジー「クラシック」(c)ARIA
write by 99/2010/01/05
⇒To be continued.



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