この時代、政略結婚が主であり、本当に好きで祝言を挙げるなど、ほとんど有り得ない。

武家に生まれたというのも、その可能性を増させるだけであった。

奥州伊達家の主である伊達輝宗様の一の姫として生まれた私は、数えで六つとなった日に許婚が決められ、十二の雪の日に相手の家に嫁いだ。

それは仕方のないことだった。

四つ年下の弟、伊達政宗を将来名乗ることになるであろう梵天丸は懐いていた私が居なくなることを心底嫌がった。

傅役であった片倉景綱殿の制止を振り切り、冷たい雪の上で泣き叫んでいた。

それももう十一年も前の話だ。

出戻りと言うと言葉は悪いが、嫁いでから数年して相手を戦でなくした私は、子を生す事もなかった所為か、伊達に送り返され、今は伊達政宗の居城で生活をしている。

母との不仲の所為か、早々と精神的に大人になってしまった政宗は父である輝宗様の後押しもあり、予定されていた年齢よりも早く伊達家当主の座を継ぐこととなった。

その為、私が出戻った時には既に弟が当主をしており、適齢期を過ぎたといえ、まだ女として使い道のあった私が次の嫁ぎ先に出されることはなかった。

戦国時代といえば、女は政略結婚の道具で、嫁ぎ先が滅びた場合、出戻って他に嫁ぐ等茶飯事だった。

史実浅井家の三女などは三度の結婚をしている。

そうであるのに、私が再び伊達家を出ることがなかったのは、全ては梵天丸であった頃の彼のトラウマの所為であるのは明々白々だった。



「姉上、入るぜ?」

「返事をする前に開けるのはお辞めなさい」

「Sorry」



返事をする前に襖を開けた政宗は口では謝っているものの、眼帯の着いていない左目に悪戯っ子のような色が乗っている。

呆れを込めて、一つ大きな溜息を吐き出せば、金の隻眼に少しばかり不安の色が見え隠れし始めた。

内心、クスリと笑って、いまだ廊下に居る政宗を手招いた。

手招きに応じて、政宗は私の目の前に座る。



「それ程怒ってはいませんよ、政宗。ところで、どうしたのですか?」

「姉上がこのところやけに右目を触ってるって聞いてな」



喜多ですね、それ。

気をつけてはいたのに、気取られてしまった自分に呆れてものも言えない。

私が右目を触る癖は、政宗が右目を失った頃から始まっている、らしい。

というのも、私自身言われるまで気付かなかったからだ。

癖なんて、人に言われてはじめて自覚するものなんだと、開き直ってはいるが。



「何か、あったか?」

「政宗には隠し事をしても無駄でしょうし、仕方ありませんね」



諦めの溜息を吐き、政宗が開けたままの襖から見える庭に視線を移した。



「少しばかり寂しかっただけですよ」

「姉上が?」

「えぇ。最近、政宗は良き宿敵が出来、こちらに戻ったかと思えば、早々に甲斐に赴いておられましたし」

「姉上」

「だから、少し寂しかったんです」



政宗の驚きようも最もだと思う。

私は普段邪魔にならないよう控えるの仕事とばかりに何も口を出さない。

その私がこうも正直に気持ちを表したのだから。



「でも、構いません」

「は?」

「政宗はここに帰ってくるでしょう?」



そう、彼の帰る場はここ、奥州だ。

ならば、彼をいってらっしゃいと見送って、おかえりなさいと迎える役目になりたい。

いつかこの子の隣に立つだろう愛姫様が現れるその時までは。



「そうそう。おかえりなさい、政宗」

「ただいま帰りました、姉上」



その声と笑顔だけで、私は充分幸せだから。






愛すべき姉上様
(この時、私は知らなかった。愛される姉姫様の意で私が愛姫と呼ばれていたことを)
write by 99/2011/1/





まずはリクエストしてくださいました、澪サマ、ありがとうございます。
影竜の女性バージョンみたいなのと解釈し、イチャコラさせてみました。
やっぱり史実上愛姫の存在があるので、ヒロイン的にはお姉様の立場から見守る気満々ですが、この政宗様、確実にお姉様のこと大好きです。


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