はらはら、と、落ちる涙をとめることなど出来なかった。

政宗の顔に雫が落ちてしまいそうで、止めなくてはと思ったのに、溢れ出た涙は止まらなかった。

この子を、政宗を失うかと思うと普段籠もっている東の離れを飛び出していた。

戦ではなく、ただの視察で出向いたはずなのに、傷を負って城に帰ってきた政宗は今は目の前で眠っている。

数年ぶりに見た政宗は奥州伊達家に私が嫁いできた当時の輝宗様にそっくりで、あぁ親子なのだと、輝宗様に対し、少しばかりの劣等感を抱いた。

同時に、私に希望を与えてくれた輝宗様に似てくれて良かったとも思った。



「細かい傷が、多いね」



誰にも晒すことのない右目も、今は眼帯が外され外気に触れている。

政宗が目覚めたときに私が居てはいけないだろう。

あの日このままでは甘えたで乱世に生き残れないと、突き放した子供はもう元服も過ぎ、数えで十九になった。

もう立派な大人であるし、輝宗様が隠居した時から、国主となってもう久しい。

幾度、戦に出向いたのだろう。

幾度、こうやって傷を負ったのだろう。

その答えなど、誰も答えてはくれない。

眠るこの子の傍に居れる今は奇跡なのだ。



「景綱殿、政宗を頼みますよ」



いまだ止まることのない涙は無視して、立ち上がる。

景綱殿が複雑な表情をしているのも、無視した。

顔を、無事な姿を見れただけで十分だ。

そう思い、東の離れに帰ろうと足を進めようとした。

けれど、進めようとした足が進むことはなく、自分の歩みを止めている何かを振り返った。



「は、はうえ、Don't cry」



掠れた声は、真っ直ぐにこちらを向く金の目は、誰に向けているの?

涙が、止まらない。

政宗は知りはしないでしょう?

此処で言う南蛮語を、英語を私が理解しているのを。

泣くなと言う君は何を思ってその言葉を私に向けるの?

私は君に母上と呼ばれる資格などないのに、どうして?



「泣くな、泣かないでくれ」



懇願に誓いそれと共に、温かなぬくもりに包まれた。

それが何か、理解出来た時には、畳に膝をついて、力の限り政宗に抱き締められていた。



「政、む、ね?」



毅然とした態度で突き放さなくてはいけないと、そう頭では分かっているのに、行動に出来なかった。

声帯を震わせたのは、政宗の名前だけで。


「Don't worry.知ってる。母上が、態とオレを突き放したことも、ずっと知ってた」



知っていた?どうして?なんで?

答えなんて一つしかないのに、私は大きくなった自分の息子を抱き返すこともなく、ただただ呆然としていた。



「だから、去るな、泣くな。傍に居てくれ」



傍に居てくれと、そう言った政宗に、全てを許された気がして、己よりも遥かに大きな彼の背に縋りついた。





Dnt't cry My dear.
(「政宗、放して?」「No!」)
write by 99/2011/01/20




まずはリクエストしてくださいました、澪サマ、ありがとうございました。
義姫成り代わりです。
こちらはヒロインについて特に指定がなかったので、微妙に影竜主っぽくなってます。
もっと政宗とイチャイチャさせたかったのですが、どうしても、成り代わりにすると輝宗様救済をさせたかったので、根底に旦那様がいちゃうんですよね。
でも、筆頭的にはある意味奪う気満々。
これはマザコンなのか、それともただ単に好きになったのが母親だったのパターンなのか。
暫く、ヒロインは政宗様に掴まったまま開放されないでしょうね。


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