離れの襖を開ければ、今日が新月だと気付いた。

そして、それを見ていたかのように、人の気配がした。



「藤九郎、いいか?」



その問いかけが、入っても、というものであるのだろうと予測を立て、肯定の言葉を紡いだ。

そうすれば、この誰も近寄らない離れへと入ってくる愛しい弟の姿に、自然と頬が緩んだ。

その雰囲気を感じ取ったのか、政宗の表情もいつもの精悍なそれとは少し違い穏やかなものになった。



「いらっしゃいませ、主殿」

「No!今のオレをそう呼ばないでくれ」



弱くも聞こえるその声音に少し目を細めた。

開いていた襖を閉め、蝋に火を灯す。

その近くに座ると、政宗も私の横に座って、私の膝にその頭を下ろす。



「甘えた」

「兄上以外にはちゃんとしてるだろ?」

「仕方ないですね、ホント」



自分と同じ色をした髪を手櫛で梳いて、フフッと笑った。

政宗が甘えられる存在で居られたことに安堵する。

なんだかんだとこんな時間が好きだったりする。

幼い頃の誓いは未だにこの胸にあって、いつかこの子を守って死ねるなら本望だと思うけれど、この子が許してくれるなら、こうしているのもいいと思う。



「なぁ兄上」

「何ですか?」



いつの間に外したのか、眼帯のない空洞となった眼窩と金の目がこちらを見ていた。

政宗がそうして自分で眼帯を取るのが、自分相手にだけだということを知っている私は、この行為が嬉しくて堪らないのだから、どうしようもないと思う。



「呼んでくれねぇのか?」

「本当に仕方のない子だことで」

「駄々を捏ねるのも、兄上にだけだ。知ってんだろ?」



我儘に思われがちの政宗だけど、叶わないことやどうしようもないことは絶対に言わない。

あと、人が困るようなことも。

それがこの子の傷であることは重々承知の上。



「政宗」



政宗が息を呑む。

髪を梳く手を止めて、膝の上の顔を覗き込んで、真っ直ぐに視線を合わせて、微笑んだ。



「空宗は政宗のことが大好きですよ?」

「オレも兄上が大好きだから、頑張ることにする」

「あまり無理はしないでくださいね」



少しばかり恥ずかしそうにはにかんだ政宗に苦笑を浮かべて、そう付け加えた。

顔を見合わせて、今度は二人で笑ってしまった。



新月の夜の逢瀬
(「栄丸は梵天丸様のことが大好きですよ」「オレもさかえがだいすきだから、がんばることにする」)
write by 99/2010/12/25




まずはリクエストしてくださいました、澪サマ、ありがとうございました。
政宗成長後で影竜主にベタ甘えということでリクエストをいただいたはずなのに、何故か影竜主がただただ甘やかしてました。
あれ?幼少編ではデフォですね、すみません。
とりあえず、幼少編の「葛藤なんてキリがない」がネタ元となってます。
この二人は無意識にいちゃついてると思ってます。
一応、if未来なので、将来的に政宗と影竜主がこんな感じなのかはまだわかりませんが。


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