ずっと憧れていたものがあった。

写真だけで知っていた兄と共に迎える年中行事。

親父は昔から忙しかったし、母親はあの日から俺を見ることなんてなく、弟の小次郎しか見てなかった。

話によれば、兄はあの母親と一切関わりなく育ったと聞く。

それに比べれれば、オレはまだマシなのかもしれない。

それでも、家族が揃って迎えるというそれをオレは知らなかったし、いつだって一緒に居てくれたのは、世話係の小十郎だけだった。

もうクリスマスを家族で祝うという年でもないわけだが、この季節、街中でクリスマスソングが流れ、通行人がどこか浮き足立って見えるこの時期になると、そんなことを思う。

とはいえ、クリスマス当日に何の予定もなく、家に帰ろうとしているオレは寂しい以外の何物でもないだろう。

いや、誘われはした。

同じゼミの奴や同じ講義を取っている謂わば同級生という奴らに、一緒にクリスマスをしないかと言われはしたのだ。

オレはそれを即答で断っただけで。



「政宗」



唐突に聞こえてきた自分の名前に駅の構内を見渡せば、すぐ後ろに某有名ブランドの紙袋を持った兄の姿があった。



「なっんで、空宗が?」

「小十郎さんに誘われたんですよ。政宗とクリスマスしないか?って」

「小十郎が?」



疑問符を飛ばしていたら、空宗に手を取られる。

小さな子供にするように手を繋ぐこの兄の中の自分はいったい何歳なのか訊きたくなるが、それを訊くには怖い。



「政宗、手袋くらいしなさい。手が冷え切ってる」



仕方ないとばかりに繋いだ手を解き、自分の着けていた手袋をオレに押し付けた。



「クリスマスプレゼントは手袋にした方が良かったかな?プレゼントとは別にそれをあげるから、手は冷やさないこと。いいね?雪降ってる。どうりで寒い筈だ」



ブツブツと言ってから、オレに笑うこの人に勝てた試しがない。

もう一度繋がれた手を振り解けもせず、苦笑した。

駅を出てロータリーに小十郎の車を見つけて、そちらに向かって歩き出した空宗の視線は自分を見ていなかった。

なんとなく、面白くない。



「なぁ空宗」

「なに?」



自分とほぼ同じだけれど、ほんの少しだけ低い位置にある空宗の顔がこちらを向く。



「Merry Christmas」





君の傍は温かな雪が降る
(いい笑顔で言うとか卑怯くさいよ、政宗)「空宗?」「大丈夫!」(何が?)
write by 99/2010/12/25








まずはリクエストしてくださいました、琥珀サマ、ありがとうございました。
影竜現パロで双竜と影竜主のほのぼのクリスマスが、蓋を開ければ双竜でなく蒼竜と影竜主のクリスマスになっていたという。
なんだこれ。
超リベンジしたいんですが。
小十郎さんが出てない。
そんで、筆頭も影竜主も変態臭いのは何でだ!
影竜主が変態臭いのは本編からデフォでしたね←
影竜主の持ってる紙袋の中身は双竜と輝宗さん、それから喜多さんと綱元さんへのプレゼントが入っていると思われるわけですが、多分金額的に一番良いプレゼントを貰えるのは間違いなく筆頭。
現代版での影竜主は敬語なしです。
伊達家の幼少期設定は別でそのうち書く予定です。



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