何か木でできたものがぶつかり合うような、それでいて木刀とはまた違う、そんな聞こえてきた音に私は首を傾げた。
音が途切れたかと思えば、続いて聞こえてきたのは笑い声。
その中に現在の自分の主と幼少の君より傅役をさせていただいた方の声、更にはお二人よりも高い鈴の転がるような女子の声を聞き、頭を抱えたくなった。
あの御兄弟は、今日は何を仕出かされたのだろうか。
義姉上を挟んでの義弟の今にも血管が切れそうなほどに青筋を浮かべ胃を押さえる様子がふと思い浮かび、思わず苦笑を零してしまった。
「Hey!綱元、Come here」
「鬼庭殿、どうぞ鬼庭殿もこちらへ」
にやにやと笑い雪塗れになっている政宗様に呼ばれたが、正直なところ、私は南蛮語に明るくない。
全く、政宗様が何を言っているのか理解できない。
それに気付かれ、声をかけてくださったのは、空宗様だ。
とはいえ、本日の空宗様は伊達藤九郎空宗様ではなく、奥谷藤九郎に徹しているらしく、私を鬼庭殿などと呼ばれる。
本来のこの方の立場を考えると、恐ろしいことであるので、深く考えないことにしている。
片手では足りず、かと言って両手で数え切れてしまうそんな年数を過ごしたからだろうか。
空宗様の成される事に対して抗体が出来ていると言ってもいい。
ある意味で誇れるが、義弟には同情を買うことだろう。
あれも、政宗様に対し、思っている事は似たり寄ったりだ。
「何をされていらっしゃるので?」
「羽根突きです」
あっさりと言ってくださったが、羽根突きというのは元来女子の遊びと聞いている。
最近では神事としての意味合いが強いが、結局は女子の成長を祈っての神事だ。
そして、それを行われているのが、我が殿と空宗様のお二人。
女子もいるが、お二人を見ていらっしゃるのみ。
とてもじゃないが、理解しがたい。
「千子様がするべきなんでしょうが、先日の風邪がぶり返しても困りますので」
「正月っつたら、千子と羽根突きだろう」
なるほど。
千子姫様は伊達家において末娘にあたられる方である。
方々から是非嫁にと言われているにもかかわらず、政宗様が天下を統一するまで嫁になんて行きませんと断固拒否を示された。
内も外も、このお二人によく似ていらっしゃる。
幼少の頃に生死を彷徨われたが、今は元気で我が伊達軍において、成美様の次に婆娑羅者として名が挙がる程。
しかしながら、年末に風邪をお召しになり、先日床上げが済んだばかりだ。
その為に、空宗様がこちらにいらっしゃるのだが。
「政宗兄上が一番楽しんでらっしゃいますけれどね」
「当たり前だろ。千子」
空宗様は政宗様の一件もあって、医師としての仕事をなされる。
政宗様と千子姫様に限っては、空宗様以外の医師を認められないような状態の所為もあり、空宗様は普段生活なさっている奥谷の離れから、千子姫様のいらっしゃる本丸の方に移り、寝起きをしていらっしゃる。
お陰で、年末年始を本丸で過ごされた所為か、政宗様の機嫌がすこぶるいい。
「そうですね。空宗兄様と年越し出来ましたし、千子はこの上なく幸せです」
「千子様」
「いいではありませんか。人払いはしてありますのでしょう?ここには千子と政宗兄上、綱元に成実兄さんしかいませんことよ?」
困ったお顔で笑われていらっしゃる空宗様には悪いが、成実様も政宗様も頷いていらっしゃる。
千子姫様は本当に政宗様に似られたものだと思う。
お二人揃って、いや、成実様も加えて三人揃って、空宗様を慕っておられるところなど、そっくりだ。
それに加え、空宗様は御兄弟に甘い。
景綱に苦言を呈されるほどだ。
「さて、鬼庭殿も来られました事ですし、そろそろ室内に入りましょうか」
「Ah〜、兄上が風邪ひいたら大変だしな」
「俺やちぃ姫ならともかく、空宗様が風邪ひいちゃ大変」
「空宗兄様、さぁ早く室に参りましょう?」
止める間もなく、空宗様の名前を連呼されるこの方々はわざとでしかない。
普段は兄と振舞えぬのだから、少しばかり微笑ましく思える。
困ったお顔は変わりはしないが、それでも空宗様のお顔はどこかお幸せそうに見えた。
羽根突く龍(「空宗様/兄上/空宗兄様」三種三様愛される)write by 99/2011/10/02
まずはリクエストしてくださいました、月玲サマ、ありがとうございました。
影竜で正月ほのぼのとのことでしたので、IF未来で妹姫と従弟の共演でした。
とりあえず、この後この4人は小十郎からの説教を受けることになるのでしょう。
この心配性が(ニマニマ)
千子は一応伊達家の子としての記録はあるらしいんですが、幼い頃に亡くなっているらしく、何歳まで生きたなどの記録はありません。
だから、捏造し放題とも。
小次郎についてどうするかが、まだ未定の部分が多いので、4兄弟枠に従弟成実くんが入りました。
成実くんエピソードも色々やりたいので、いいフリになったかと。