たとえば、2XXX年であったなら、タイムトラベルが可能になっていたかもしれない。

けれども、俺が生きていた時代にはフィクションの中でしか、そんなものは存在しなかった。

いや、俺の知らないところで開発されていたなんてことがあるかもしれない。

でも、そんなものが開発に成功していたとしたら、メディアは挙って取り上げていただろうから、ないと思う。

磁場が狂うなんたらという海域だったか空域だったかの辺りで戦時中の戦闘機が現れ消えたという摩訶不思議な話は事実だったのだか?

あれも一種のタイムトラベル、この場合タイムスリップだろう。

真実であったなら。

俺には真相など分からない。

嘘か本当か分からない口調でその話を俺に聞かせたのは戦国時代贔屓の日本史マニアだ。

あの人なら、この状況でも逞しく生きていけそうだと思う。

だから、言わせてくれ、何で俺だったんだ。と。



「今更でしょうに」

「だよなぁ」



軽い溜め息を吐いた目の前の人間に口角を上げて笑うと、穏やかな笑みが返ってくる。

見た目だけでは性別の判定が不可なこの人は俺の実兄にあたる人であるが、そうである以前に俺が執着する前世で、俺を庇って死んでしまった“先生”だ。

日本史専攻の教師になる為に俺の通う高校へ教育実習に来た大学生。

俺にはじめて声をかけてきた第一声が「君の御両親のどっちかが歴史マニアだったりするの?」だったのは、きっと忘れないだろう。

その後に続いたのは、長宗我部家の話だったのは言うまでもない。

先生の思考回路は少々…いや、とても特殊で俺の親夏という名前の親をちかと読むそれをいたく気に入っていた。

あとで見せられたゲームのキャラクターが半裸の兄ちゃんである意味驚いた。

先生、ゲームとかしそうにないのに、見せられたのが格闘系って。

つうか、教育実習期間ってそんなに長くないのに、他の先生に内緒で社会科準備室にPS2持ち込んでたけど、絶対駄目だろ、あれ。

俺も一緒になって遊んでたから、言わなかったけど。



「ちか?」

「そのちかはやめようぜ、兄上。どこぞの鬼さんと被っちまう。俺、政宗。My name is Masamune!」

「そういえば、昨今の子供はI'mで習うそうですよ。伊達軍が南蛮語交じりなのってデフォだけど、これは私達の所為ですよね?」

「そうッスね、先生」



そう言うとポカリと頭を叩かれる。

先生、いや、兄上こと空宗さんの手には巻物。

凶器はそれだ。

俺より4年も早くこの時代に生まれた空宗さんは俺以上の苦労人だ。

幼少期、母上こと義姫さんに溺愛されていた俺はほとんど彼女の傍から放されることなく生活してしたのだが、いや、あの頃は本気で怖かった。

狂愛って言葉はああいうことを言うんだろうなってはじめて思ったし。

親夏として生きていた頃は、両親がいつまでも新婚気分で、下に双子の妹弟がいる、そんなごくごく普通の家庭で育った。

うん、親が高校生で駆け落ちして俺を生んだから、すっげぇ若かったけど。

親父の兄さんが共犯じゃなけりゃ絶対に野垂れ死んでたぞ、あの人達は。

そんな仲の良い家庭を知ってたから、その頃に比べるともうある意味地獄だった。

父上こと輝宗さんの恐怖はなかったし、義姫さんに比べたらすっげぇ良い人で、ビックリだったけど。

マジで夫婦?って。

まぁそれ以上に驚かされたのが、空宗さんに対するデレデレっぷり。

あれは酷すぎる。

後々、俺もその被害に遭うことになっちまったんだけど。

自分が伊達政宗っていう自覚はなかったけど、こんな時代だし健康面には気を付けてた。

なんせ親夏の時は喘息持ちで、餓鬼ん頃は親に心配かけたし。

そのお陰か、目を失くす理由が敵国の刺客が投げてきた苦無だったのは、辛かった。

神経繋がったまんまざっくりだったもんで、痛いのなんの。

予定調和かもしれないが、もっと痛みの少ない方法はなかったのかよ、神様。

まぁそれで片目が失くなった俺から義姫さんは愛想を尽かした。

不衛生の所為でいつまでも傷が癒えなかった…というより、感染症一歩手前で悪化してたっていう状態で、はじめて会った兄上は俺の右目を怖がるでも気味悪がるわけでもなく、テキパキと消毒して衛生面を整えてくれた。

俺を看病してくれた兄が、先生と被って見えた時には本気で死ぬ時がきたと思ったけどな。

俺とも輝宗さんとも似てるのに、もともと性別不明だった空宗さんが余計にそうなったのは、髪を伸ばし始めてから。

その頃にはもう奥谷の名を拝命していて、俺と似てるのを隠そうとしてそうしてたらしいけど。

その髪が俺の見慣れてた先生と同じくらいの長さになった頃、先生と同じ仕草や癖を空宗さんに見つける度に少しずつ疑いを持ち始めた。

眼球を失って空洞になった右目が疼いて眠れずに城内を彷徨ってる時に空宗さんが俺を呼ぶ声を聞いて確信した。

俺をちかって呼んだその顔が今までなんで気付かなかったのかって思うくらい先生がよくしてた顔で、思わず抱き締めた。

嬉しかったんだ、二度と会えない先生に会えて。



「何を思い耽ってるんですか?政宗」

「いや、うん、その、空宗さんが先生で良かったなぁと」



途端に少し赤くなった耳を見て、笑った俺の顔は極悪だったと思う。

誰も居ないことを知っているから、ニィッと口端を上げて空宗さんの顔を覗き込む。

そうすれば、少し戸惑いながらも、俺の右目に着けられた眼帯に唇が触れる。

その仕草がどこまでも優しくて、あぁ俺はこの人に愛されてると思う。

まぁ俺も空宗さんも確実にブラコンでファザコンなんで仕方ないってことで。





俺と先生の奥州転生録
(「あぁそうそうバミューダトライアングルですよ、それ」)
write by 99/2011/10/02





まずはリクエストしてくださいました、きちがい酒サマ、ありがとうございます。
親夏の転生プラス梵天丸成り代わりで兄弟愛というリクの筈だったのですが、親夏の人格崩壊してる気がしないでもない。
もともと断り下手のある意味ヘタレという設定はあったんですが、ヘタレ要素しか残ってないってどういうこと。
親夏くんが先生大好き病にかかったようです。
はい、すいません、ふざけ過ぎました。
でも、親夏の心情は書いててすっごい楽しかった。
影竜主の家族構成はいつか本編に書く予定なので、今回は本編に殆ど出ることのない親夏視点でした。
本編番外で影竜主が死んでしまった後の現代親夏の話を書きたいなぁとは思ってるんですが。



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