奥州には二匹の竜が居る。

それは奥州のみならず、武人であれば知っている周知のことだ。

一人を伊達藤次郎政宗といい、伊達軍屈指の雷の婆裟羅者である。

もう一人を伊達藤九郎空宗といい、奥州筆頭の名を欲しい侭にする智も武も備わった現伊達家当主である。

この二人は実の兄弟である。



「空宗、勝負だ!」

「政宗、貴方にはこの書面が目に入らないのですか?」

「最近相手してくれねぇ空宗が悪い」



困った子だことで。と、呟き、手に持っていた巻物を文机に置いたのは、空宗様だった。

その様子に傍で控えていた私は苦笑を浮かべる。

この方は、幼少時より政宗様には甘い。

父君である輝宗様も、母君であられる義姫様も、この御兄弟には甘い。

小さな頃からしっかり者で大人びた空宗様に、空宗様に殊更懐きその後を引っ付いてまわっていた政宗様。

御二人は二人で一人であるかのように、いつも一緒だった。



「手合わせなら。言っておきますが、婆裟羅はなしですよ、政宗」

「チッ」

「舌打ちするような態度なら、このまま室に逆戻りしますが?」



口ではそう言う空宗様がこういうお言葉を実行されたことなど一度もない。

政宗様もそれはわかっているのに、その目に映るのは少しの不安だ。



「政宗?」



何かに気付かれたように、空宗様がほぼ同じ体格の政宗様を見つめる。

歩みを止め、落ちた沈黙は僅かの時で、空宗様が一つ頷いたかと思うと、政宗様の手を取られた。



「綱元、景綱に政宗を預かると伝えてください。それから、二刻程、私の室の人払いをお願いします」

「空宗!?」

「政宗は黙ってついてきてください。それとも、」



近くに居た私には聞こえてしまった。

空宗様が意地悪く笑って伝えた内容を。



「政宗の体調不良を母上と父上に報告しますか?」



御二人にとって頭が上がらない御両親は隠居の身ではあるが、彼らに何かあればこちらの城に来られる。

体調不良などという理由であるなら、御両親からの政宗様に向けられる説教は免れられはしないだろう。

そして、家族仲の良い伊達家ではそれが何よりきつい。

わかっていて選択肢に加えるなど、空宗様も相当である。

心配なされているだけなのだが。

空宗様の自室へと向かわれる御二人の背を見送り、私は義弟である小十郎を探すことにした。




二匹の兄弟竜
(昔から政宗様の異変に一番に気付かれるのは空宗様だった)
write by 99/2011/01/19



まずはリクエストしてくださいました、紅葉サマ、ありがとうございます。
影竜IFで伊達家が子供大好き一家で育ち、影竜主が奥州筆頭になったらということでしたので、奥州筆頭な空宗を書かせていただきました。
親馬鹿な両親の元でお互いブラコンな影竜兄弟です。
隠居しても息子達が心配でちょくちょく遊びに来るんです。
空宗様は小十郎を景綱呼び。


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