染まる世界と染まらぬ藍

side:スクアーロ



真っ黒な隊服のコートが翻り、目深に被っていたフードが脱げる。
月明かりに藍とも紫とも言えるような黒髪が照らされる。
髪の隙間から見えた目は人を殺したとは思えない程に澄んだ藍。


「バイパー」

「マーモンだよ。いい加減、覚えてよね」

「悪ぃ」


そうは言っても、この少年体をしている女はチラリともこちらを見ない。
幻術を駆使すれば血を浴びることもなく人を殺すことも可能だというのに、バイパー、いやマーモンは幻術で出した剣、あれは剣というよりもジャッポーネの日本刀に似ているだろうそれで相手を躊躇うことなく貫いた。
後ろから悟られることなく、心臓を一突き。
見事としか言えないそれは、初めての殺しの頃から変わらない。
初任務の時に、監視として同行した俺は目の前で起こった光景を信じられずにいたのを今でもまだ覚えている。


「こんなものか」

「あぁ?」


マーモンが何か呟いたのが聞こえたが、何を呟いたのかまでは聞き取れず、聞き返す。
腐っても暗殺者だ。
俺も音には敏感な耳を持つ。


「なんでもないよ」


苦笑気味にヒラヒラと振る手は血に濡れていた。
それでも、マーモンの目は暗殺者特有のそれではなく、ただただ澄んでいて、その目に映る自分の銀が恐ろしくなった。
暗殺者になり暫く経った今でも、その藍だけは澄んだまま変わらない。


「そうだ、スクアーロ」

「何だぁ?」

「ボスに話した後になるけど、君にも話したい話があるんだ。時間を空けてくれるかい?」


そう言ったマーモンは既に隊服のフードをいつものように目深に被っていて、もうあの藍は見えなかった。




澄んだ は染まらない







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