黒衣の死神は微笑う

母の葬儀は呆気ないほどあっという間に終わった。
リボーンと集落の人達が全て手配してくれたおかげで、私は何をするわけでもなく、ただ母の遺体に寄り添っていただけだった。
集落の裏に位置する墓地への埋葬が終わり、全ての後片付けをしてくれたリボーンに珈琲の入ったカップを渡す。


「バイパー」

「なに?」


自分の分のマグカップに息を吹き掛け冷ましながら、首を傾げてリボーンを見た。
リボーンのブラックオニキスのような目がこちらを見ていた。


「俺んとこに来い」


たったそれだけ。
その一言で私は生まれ育った母との想い出が詰まっていた村を出て、リボーンと暮らし始めた。
不自由はなかった。
三年一緒に住んだけれど、いまだにリボーンが自分から職業を語ることはない。
語られなくとも、私は知っていた。
この生活を支えるお金が、誰かしらの命をリボーンが奪うことで得られているということを。


「まだ起きてんのか?」

「おかえり」


深夜2時過ぎ。
いつもなら寝ている私が起きていたことにビックリしているのか、リボーンの眉が僅かばかり動いた。
気まずそうに目線を彷徨わせたところを見ると、今は会いたくなかったというところだろう。
そういえば、仕事帰りというのか、深夜に帰ってきたリボーンに会うのははじめてかもしれない。
本当なら、こんな時間までどんな仕事なのとか問い詰めるんだろうな。
私は前世知識の所為で、知ってしまっているから、問い詰めるようだなんて思わないけれど。


「っ」


何かを言い淀んだリボーンに、抱き着いた。
小さな頃ならよくしたけれど、最近は気恥ずかしさもあってしなかった。
抱き着いた瞬間、ふわりと香った硝煙の匂いは気の所為なんかじゃない。


「言わなくていいよ」


知ってるから。
わざわざ自分の言葉で傷付く必要なんてない。
キュッとごまかすように抱き着いた腕に力を込めると、リボーンの腕が背中に回って抱きしめられた。
リボーンより小さな私の肩に埋もれるように頭が押し付けられる。
抱きしめてくれる身体は私より大きいけれど、細かった。
私を抱きしめるこの腕が奪った命は幾つなのか。
そんなこと知る由もないし、知りたくないけど、忘れたくないと思う。
私の知らない誰かの命によって、私は生活を営んでいるのだということを。


「なぁバイパー」

「なぁに?」

「愛してるぞ」

「うん」


愛してると返すことは出来なかった。
たとえそれが家族愛だとしても、私はその重みを背負わすなんて出来ないから。
きっと私の愛は重い。
だから、愛してるなんて言わない。
大好きだよ、ただそれだけ。


「リボーン、笑って?」


笑ってくれれば、それでいい。
リボーンが笑ってくれることが嬉しいから。
私の言葉に応えるようにリボーンは笑った。





それは 哀 の微笑み



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