無償の愛と別れの時

知りたくなかった真実というのは実に呆気なく知らされるものだ。
そんな知りたくもなかった真実を知って、もう五年が経っていた。
私は13歳、リボーンにはじめて会った時のリボーンの年齢と同じだ。
そんな彼は今年18歳で、イタリアでは成人と認められる年だ。


「バイパー」

「リボーン!」


何を生業にしているかなど知りたくもないが、この田舎に自宅を持つリボーンは事あるごとにうちに来る。
彼がヒットマンであり、いつしか敵となるのだと解ってはいるが、私の小さな世界を構成するのは、この彼と母である。
大好きなものと言われれば、私は迷いなくこの二人の名前を挙げるだろう。


「ママンは?」

「今日はちょっと体調がいいみたい。ベッドに座って本を読んでいたよ」

「そうか」


洗濯物を干す手を止めて、母の部屋がある辺りを見て目を細めた。
二年ほど前から母は体調を崩しがちになり、今ではほぼ寝たきりだ。
体調がいい日は、ベッドに座って本を読んだり窓から外を見たり。
まるで前世の私のよう。
日に日に弱っていく母に、私は何もしてあげられない。
薬草の知識があっても、そこらに生えているわけでもなく、薬を作ることも出来ない。


「バイパーはよくやってるぞ」


この頃から読心術を心得ているのかは知らないけれど、リボーンはいつだって私の欲しい言葉をくれる。
頭を撫でられたので、笑いかければ、リボーンも笑ってくれた。
洗濯物干しを再開し、全て終わらすと、リボーンを連れて、家の中に。
母の部屋にノックして入った。
瞬時に思考が真っ白になる。
倒れている。
真っ白なシーツに散らばる私と同じ色の髪。
誰、なんて、一人しかいない。
出そうになった悲鳴を飲み込んだ。
後ろにいたリボーンからも見えたんだろう、私の顔を部屋から逸らせるように廊下に向かせ、リボーンは母の部屋に入っていった。
いつか来るかもしれないと思っていた。
でも、でもね、神様。
もう少し、一緒に居たかったの。


「バイパー!」


ふらり。
自己防衛だろうか、私の意識はいつも大事なところで落ちていく。
リボーンの叫ぶ声に大丈夫だと言うことは出来なかった。
温かい。
温いお湯に浸かっているようなそんな温かさに意識が浮上していく。


「バイパー?」


心配そうな声に導かれて見た先はいつもと同じ黒のスーツを着たリボーンだった。
違うと言えば、その頭に帽子がないことくらい。
ふわりと髪を撫で付けられ、身体を起こす。


「ママンは?」

「発作だったみてぇだ。もう、」


手遅れだった。
死んでいた。
聞こえなかったけれど、多分そういう感じの言葉が続いたんだろう。


「そっか。お葬式しなくちゃ」

「あぁ」


不思議と涙は出なかった。
心の中を占めていたのは、とてつもない喪失感だった。






もう 無償の愛 をくれた人はいない



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