赤い朱い紅い緋い世界

五冊程の本を抱え図書館の自習スペースへと向かう。
一般的にハードカバーと呼ばれるそれは小説ばかりだ。
これを読めるだけ閉館時間までに読み、残りは貸りて帰る。
それが私の楽しみだった。
家に帰れば帰ったで、部屋の壁はほぼ本棚と変わっているし、その中には小説だけでなく漫画も並んでいる。
幼い頃からの病弱な体質の所為で学校を休みがちだったので、友人らしい友人のいない私の友達だったのが本だったので、仕方がない。
父も母も私の薬代や手術費を稼ぐ為に働いているのだから、我が儘など言えやしない。
私自身が働いて稼げれば一番良かったが、如何せん、私の身体はそんなことが出来るものではない。
今年成人したにも関わらず、このていたらく。
仕方ないわよ、と疲れた顔で笑った母が脳内にちらついた。
今日は話に集中出来なかった。
何故だろうかと首を捻り腕時計に目を遣れば、すでにここに座ってから3時間が経っていた。
このまま此処に居ても進まないと思い、重たくなるけれど貸りて帰ることにする。
コートを羽織り、鞄を肩にかけて立ち上がった瞬間に、人にぶつかられる感覚と共に訪れたのは鋭い熱だった。
痛いとも、熱いとも。
思わず触れたそこは何故か濡れていて、触れた手を紅く染めた。
刺されたと気付いたのは、知らない誰かの甲高い悲鳴を聞いた時。
足から力が抜け、先程の熱が嘘のように寒くなり、意識が朦朧とする。
死ぬのってこんなものかと、そう思ったのは嘘じゃない。
死ぬ時はこの病弱な身体が原因で病院か自宅のベッドの上で死ぬんだと思っていた。
実際はこんな、家族や主治医のような知っている人のいない図書館で、誰ともわからない人に刺されて死ぬのだ。
人間なんて、呆気ない。
でも、これで、母も父ももう必死になる必要などない。
混濁した意識の中、少しだけ笑えた気がした。








世界は あか に覆われた








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