くやしい




点滴がポタリポタリと落ちるんをただジッと見つめる。
その点滴が繋がれとるんは俺じゃのぅて、文月じゃ。
ガラリて戸の開く音が聞こえたが、振り返らんと、文月を見つめる。


「詐欺師が文月ちゃんにご執心なんは、ホンマやったんかいな?」


苦笑じみた声音でそれを紡いだヤツを振り返る。
見知った顔がそこにあった。


「忍足、文月はどうなんじゃ?」

「風邪やな。点滴終わったら、帰っても大丈夫やけど、明日もっかい診せに連れてきぃ」


氷帝の天才、忍足侑士。
コイツは氷帝の大学で医学部に進んで、医者になった。
身体の弱い文月がはじめて倒れた時に担ぎ込まれた病院の小児科医がたまたま忍足やったらしく、それから丸井が知人てこともあって、文月の主治医をしとる。


「パパさんは帰ってへんの?」

「今回は知らせとらん」

「文月ちゃんが嫌がったん?」

「文月が倒れたん知ったら、丸井は飛んで帰ってくるじゃろ?それが文月は嫌なんじゃと」


いい子過ぎるんじゃ、ホンマに。
そう付け足したら、忍足が笑た。


「体調良かったし、ちょっと頑張り過ぎたんや。すぐに治るさかいに大丈夫やで」


昔はしょっちゅう倒れとった文月がここ最近体調を崩すことは少なくなっとった。
やから、油断したんじゃ。


「悔しいぜよ」

「悔しがるんは後からにしとき。文月ちゃんが起きる前にお前が倒れんで?仁王」

「は?」

「ずっと寝てへんやろ?医者なめたらあかんで」


ニヤニヤと嫌な笑顔を浮かべた忍足は俺の肩を二回ほど叩いて、病室を出てった。
見抜かれるやなんてのぅ。


「悔しいのぅ」


文月の体調変化にも気付けんかった自分が。
今、一番悔しいんは、忍足に見抜かれたことじゃが。



くやしい
(とりあえず、はよ目覚めんしゃい)
(c)xxx-titles







ヒロイン風邪をひくの巻。
身体弱い設定なんですが、忍足はもっと壊すつもりだったのに、なんか大人キャラになってしまった…。
丸井をパパさんと呼ぶのは忍足だけだと思う。
ヒロインが小さな頃は多分パパってみんなが言ってたかと(笑)
「文月ー、パパが呼んでるぜ」とか「パパんトコ行こうな?」とか。
多分、丸井は「お前がパパ言うな!」って片っ端からツッコむんだよ。







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