君が生まれる前からずっと




「文月、起きんしゃい」


肩を揺すってみても文月が起きる様子はなかった。
文月の寝起きはいい方じゃ。
それもその筈、文月は早寝を基本としとるし、一度寝たら目覚ましをセットしとる時間まで絶対に起きん。


「はぁ」


溜息を一つ落として、文月の髪に指を絡ませる。
付き合い始めた頃は中学時代のブンちゃんと同じくらいにまで切られたショートじゃった文月の深紅の髪は今や背中を流れるくらいに長い。
風に靡くそれが綺麗で、お気に入りなんじゃというをは内緒じゃが。


「そういや、はじめて会うた頃も長かったのぅ」


文月の髪を梳いていて思い出したのは、中学三年の夏じゃった。
幸村が入院しとる中での全国三連覇のかかった関東大会の少し前。
大会前で部活部活と部活三昧じゃった俺らん前に突然現れた文月。
到底信じられん話をいとも簡単に信じたんは俺らじゃ。


「文月、俺はお前さんが生まれてくる前からお前さんに惚れとったよ」


文月には聞かせれん言葉じゃ。
ただでさえ、年がだいぶ上じゃき、それを気にしとるから、あんま格好悪い姿は見せとぅないんが本音。
弱みなんて見せたないと思うんは俺だけなんじゃろか。


「ん…」


何かを察知したんか、文月が薄く瞼を上げて、薄紫の瞳がこっちを見上げた。


「まさはる」


寝起きの所為か、少し掠れた甘い声が舌っ足らずな言葉で俺の名前を紡いだ。


「おはようさん」


フッと笑って、もう一度、文月の髪に手を伸ばした。



君が生まれる前からずっと
(あいしてる)
(c)xxx-titles






仁王氏は完全にヒロインにゾッコンです。
ヒロインの設定として、ブン太に似てることになってるんですが…、仁王氏がただブン太が好きだったみたいに見えてくるこの恐怖。
違うよ!
仁王氏は純粋にヒロインが好きですよ!!







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