背伸び




突然ですが、丸井文月、本日は侑ちゃん先生とお出かけです。
勿論、まーくんには内緒です。
理由は先週の定期健診に遡ります。
侑ちゃん先生に検査してもらった後、いつもの様に侑ちゃん先生とまったりお茶をしていました。
そこで話題に上ったのは、私の伸び悩む身長について。
侑ちゃん先生やまーくん達によると、父親の遺伝で間違いなさそうなので、安心していたんです。
ブンちゃんは中学の時こそ、そこそこにしか伸びなかったそうで、なんと一つ下の赤也先生より低かったとか。
高校では何とか伸び、大学の時にまた伸びるという脅威の体質を披露したそうです。
だから、私もいつかは伸びるだろうと思っていたのですが、14歳のあたりから一向に伸びる気配がない。
その上、お、お、お付き合いしているまーくんは一般男性に比べるとかなりの高身長。
しょぼくれていた私に侑ちゃん先生の悪魔の囁きが舞い降りたわけです。


「ヒールある靴履いてみたらどうや?」


その侑ちゃん先生の言葉を実行すべく、侑ちゃん先生とお出かけすることになった次第でございます。
まーくんに内緒の理由なんて、たった一つですよ。
まーくんはどうしてか侑ちゃん先生と私が会うのを嫌っているらしく、いつも医者なんていっぱい居るんだから侑ちゃん先生から他の医者に変えろという始末。
そんなまーくんに侑ちゃん先生と二人でお出かけなんて知れた日には…侑ちゃん先生の命はないでしょう。


「文月ちゃん、これなんてどうや?」

「可愛いです!」


眼鏡が胡散臭いなんて思っててごめんなさい、侑ちゃん先生。
侑ちゃん先生が選んでくれるものは全部センスが良くて、何より私好み。


「試しに履かしてもらい」

「はい」


侑ちゃん先生が選んでくれた一足を履いて、立ち上がってみる。
たかが5センチ、されど5センチ。
少し高くなった視線は、今までと違ってとてもキラキラして見えた。


「どや?初めてのヒールは」

「すごいです」

「履き心地はどうや?痛ないか?」

「はい、大丈夫です」


侑ちゃん先生に促されて少し歩いてみる。
少し怖いような気もするけど、痛いとかはないし、平気。
正直にそう伝えれば、侑ちゃん先生がニンマリ笑った。


「すいません、これこんまま履いて帰りたいんでお会計お願いします」

「ちょ、侑ちゃん先生!?」


私がわたわたしてる間にお会計終了。
結局、侑ちゃん先生に買わせてしまった。


「文月ちゃん、明日誕生日やろ?俺からの誕生日プレゼントや」


そう言って笑われたら、断ることなんてできない。
お礼を言おうと顔を上げた瞬間、私の体は誰かに抱き締められていた。
目の前の侑ちゃん先生の顔が引き攣って、青褪めている。
抱き締められた瞬間に香ったきつくもなく程良く甘い柑橘系の香りを私は知っている。


「忍足、人の彼女に何しとるんかのぅ?」

「…まーくん?」

「文月も迂闊にこのロリコンに近付くんやなか!」

「はい…」


ぎゅうぎゅう抱き締められて、恥ずかしい。
でも、幸せだ。


「仁王、ロリコンいうんは聞き捨てならんで!」

「ほぅ?」

「納得いかんて顔すんなや!こっちが納得いかんっちゅうねん」

「煩いのぅ。なぁ?文月」

「え?う、うん」


話聞いてなかった。
だって、なんかいつもは冷静なイメージの侑ちゃん先生とまーくんの口喧嘩がこんなに激しいなんて思わなかったから。
なんて言うんだろう。
子供っぽいっていうのか、なんていうのか。
まぁいいや。


「ほれ、文月。帰るぜよ」


手を握って、まーくんが私を連れて歩き出す。
侑ちゃん先生へのお礼は次の健診の時にしよう。


「のぅ」


まーくんの家に向かう道をゆっくり歩く。
いつもよりまーくんの歩調がゆっくりだった。


「その靴、どうしたんじゃ?」

「えっと、その〜」


侑ちゃん先生に買ってもらったって言っても平気だろうか。
まーくんは怒ったりしないだろうか。
それより、買う経緯に呆れたりしないだろうか。


「なんとなく、わかったぜよ」

「まーくん」

「何、不安そうな顔しとるんじゃ」


何も言えなかった。
悲しいわけじゃないのに、涙が溢れそうだった。


「文月」


手を引かれて、バランスを崩したところをまーくんに抱き締められる。
5センチ足したくらいじゃまーくんの身長に全然足りなかったけど、いつもより少しだけまーくんが近くてドキドキした。


「もう怒っとらんよ。そりゃ、忍足と出かけるんで俺と一緒に居って欲しかったけど、そんなことでいつまでも怒ったりせん。いつもより、文月の顔が近こうて、ちょこっと恥ずかしかっただけじゃ」

「まーくん」

「大好きじゃよ、文月」




背伸び
(たった5センチで少し大人になれた気がした)
(c)xxx-titles




忍足ロリコンネタをどうしても入れたかった。
うちの忍足はロリコンじゃないよ、多分。
初ヒールのお話。
文月ちゃんは年齢以上のちびっ子設定です。
ブンちゃんはそれなりに身長あるよってことで。
たった数センチヒールで高くなっただけで、見える世界は変わっちゃうもんなんですよね。






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