「参謀の思惑通り言うんは癪じゃがの…」


座っとったパイプ椅子から少し腰を浮かし、文月の髪を梳いて頬に手を添えた。


「はよぅ起きんしゃい、文月」


軽く触れるだけのキスを落とす。

性的な意味を持つ触れ方で文月に触れたんははじめてで、それだけやのに、胸が熱くなる。


「ん…」


微かに、文月の唇が震えた。

目尻から涙が、零れ落ち、瞼が上がり、紫の瞳が俺を映す。


「……まー…くん」

「あぁおはようさん、文月」

「まーくん、まーくんっ」


溢れる涙を拭うこともせずに、迷子の子供が親を呼ぶように俺の名前を連呼する文月を抱き締めた。


「約束、覚えとう?」

「うんっ」

「まずはブンちゃんに連絡して、水族館じゃな」


文月との約束。

文月の誕生日に丸井を帰国させて3人で水族館に行く約束。

俺ら2人の約束。

忘れてしまった君へ。

ただ、もう一度、逢いたかった。




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