ピッピッピッピッピッ

規則正しい機械音が響いている病室で俺はただ文月を見つめていた。

あの日から文月は意識を取り戻さないまま眠り続けている。

万が一の為に機械は繋がれているものの、呼吸は自分で出来ているから、呼吸器の音はない。

文月の為に一時帰国した丸井は残してきた仕事を片付けにあっちに戻った。

まぁ最後まで文月の傍を離れようとせんかったんじゃが。

それはもう赤也が呆れるくらいに。


「文月、随分な寝坊やのぅ」


早起きが得意な文月は俺より遅く目覚めることは稀じゃった。

俺自身規則正しいとは言い難い生活を送っとるが、文月はそんな俺に規則正しい毎日を与えた。

朝飯をきっちり用意して、自宅を兼オフィスにしとるけぇ普段は家で昼飯も食うが、外に出る時は昼の弁当も用意してくれる。

んで、晩飯の支度。

俺が仕事関係で飲みに出ても、軽い夜食の準備があって、飲んだ次の日の朝は決まって胃に優しい朝食を作ってくれるんじゃ。

齢10歳にして文月はしっかりし過ぎとった。

父1人子1人の環境がそうさせたんか、ただ文月の性質なんかは知らんが、とにかく文月はしっかりしとる。

そんな文月の寝顔は俺にとって珍しいもんじゃった。


「文月はまだ目覚めないのか?」


急に声をかけられ、背後を振り返れば、柳が立っとった。

戸が開く気配にすら気付かんかったんは俺のミスじゃろう。


「あぁまだ目覚めん」

「そうか。仁王、面白い話をしてやろうか」

「面白い話じゃと?」


微かに笑みを浮かべる立海の達人と呼ばれた男に猜疑心を抱きながら、俺は先を促した。



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