案の定、丸井は弦一郎達にも同じように紹介をし、文月は臨時マネとしてコート内に入ることを許された。

あの弦一郎が許したことを赤也は不思議そうにしていたが、文月なら仕方がないと俺は思う。

礼節を弁えた文月の態度は弦一郎には非常に好ましく思えただろう。

紹介者が丸井となれば、更に効果は倍増される。

自然に彼女と丸井を比べ、弦一郎の中で彼女の礼儀正しさは抜きんでていたに違いない。


「文月、大丈夫そうで何よりじゃ」

「え?」

「昨日様子がおかしかったじゃろ?部活行く言う話した後じゃったけぇ、ちょっと心配しとったんじゃ」

「心配おかけしましたー」


俺は自分が見ている光景をどこか不思議に思った。

この会話を丸井と彼女がしていれば疑問に思わなかったかもしれない。

だが、何故、仁王なんだ。


「れ、…柳くん」




今のも、気のせいなのか?


「文月、何かあったら、俺かブンちゃんにいいんしゃい」

「あ、うん」

「よしよし、えぇ子じゃ」


俺に気付いて仁王はコートに戻ろうとしていた。

普段の仁王からは考えられないほど、丸井の従兄妹には優しく接しているように見える。

これも、お得意の詐欺の一つなのか?仁王。

それとも…。


「文月と呼び捨てにしても構わないか?」

「は、はい」

「俺もどう呼んでもらっても構わない」

「わ、かりました」


挙動不審だ。

仁王が居なくなって2人になった途端、そわそわと落ち着かない。

借りてきた猫、という表現が当てはまるだろう。


「文月は丸井と仲が良いのか?」

「ブン、太とですか?」

「あぁ」

「仲は良い…といいですね。私が一方的にそう思ってるだけかもしれないですから」


この少女はおかしい。

言動、行動、すべてが何か違っている。

落ち着かない。

確か俺達を見る目が悲しみを含んでいた。

中でも、仁王への視線がその悲しみが人一倍強く感じた。



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