バーミア峡谷の頂上、まできてサリアは少し動揺した。
思った以上に高い。酷い顔で吐き気を抑えていると、
アルヴィンが近づいてきて腕を回してきた。
「おたく、高いトコ苦手?」
「…別に」
「うそおっしゃい、顔、ひどいぞ」
「……そんなにひどいかい?」
「や、そんなことは無いけどさ。不安だったらつかまっててもいーぞ?」
「…アルヴィン、信用するよ」
「、おう、」
小さい声での会話。聞き取られるわけも無く。
ジュードたちの会話に消されて誰にも気付かれることは無かった。
自然に離れて、アルヴィンはジュードに声をかける。
「どうするよ?」
「時間がありません…」
「(え、ちょっと待ってここから飛び降りるの、)」
「ってことは、コアを狙うチャンスは、一度か」
「行こう、皆を助けなきゃ」
わずかに青い顔をしているサリアには気付きもせずに事が進んでいく。
他に手は無いのはわかっているはずだ、とサリアは自分を奮い立たせた。
もしかしたら高所恐怖症が治るかもしれないよね、なんて無理な理由までつけて。
どうやらエリーゼも行くらしい。こんな小さな子が行って私は待ってますなんて言えない。
ああ、憂鬱だ、そう思いながら、ふわっと宙に浮く身体に吐き気を覚えた。
「サリア」
アルヴィンが手を差し出す。その手に指を絡める。アルヴィンは少し動揺して、心で呟く。
「(なんでこいつ、恋人つなぎなわけ…、?)」
「?」
「なんでもね」
「そうかい」
「(これくらいで動揺するなんて、俺はガキか)」
青い顔をしてはいるが綺麗な顔立ちだ。
サリアの横顔を見ながらよくわからない気分に苛まれながら、
アルヴィンは己の使命がある、と気にしないように顔を背けた。
「見えた!アルヴィン!」
「だが、こう揺れちゃ…」
ジュードの声が響く、サリアはすっと手を離して、アルヴィンの腰に抱きつく。
この揺れでは、きっと狙いも定まらない。安定は必要なはずだと判断した。
ジュードもアルヴィンの支えとなり、二人に支えられたアルヴィンは気が利くな、
と心なしかうれしそうに呟いた。放った銃弾は、コアを貫いた。
魔方陣がとけ、被験体となっていた民は解放された。
カラハ・シャールの領主も同様で。苦しそうな表情をしながら、
覚束ない足取りで歩いてくる。途中で、気を失った。
「旦那様!」
クレインが眼をさますと、長居は無用となった。
ナハティガルも、どうやらここには居ないらしい。
やっと帰れる、とサリアが安心すると、頭上の岩のようなものが光りだした。
「(まだ…あるんですか…)」
眩い光と共に、蝶が生まれた。
もはや突っ込む気にすらなれずに、サリアは腰元の双剣を構えた。
(アトラクションが多い気がするが、気のせいかい?)
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