アルヴィンは言葉を聞いた瞬間、
心臓が口から飛び出てしまうんでは無いだろうかと思うくらいの動揺に襲われた。
しかし、彼女の声には照れ、や優しさなどの感情が無かった。

「、どういうことだよ、」

「…うん、」

「サリア、」

責めるように名前を呼ぶ。彼女は薄く笑って、それからもう一度本当にすきなんだよ、と繰り返した。

「だけどね」

「、だけど?(何なんだよ、)」

「一緒に居たら、依存してしまうだろうし」

「そんなの…ッ」

また、抑揚の無い表情にもどった。しかし、アルヴィンはその瞳に隠しきれていない感情を見てしまった。
手負いの獣のような瞳。裏切られて誰も信じられなくなったかのような瞳がそこにあった。
自分のそれとよく似た、おびえた瞳に、吸い込まれるように、アルヴィンは口付けた。
最初は、小さく、啄ばむように、唇の柔らかい感触を、楽しむように、いずれ、深くなる。抵抗ではない胸を押す手が、コートを少し握った。

「依存したら、大変だから」

「…」

「裏切るのも、裏切られるのも、疲れるから」

「…、俺は、(裏切らない、なんて言えない)」

「でも、」

「っ、」

「きみのことがすきだと気付いてしまった」


諦めたようにサリアは笑った。もう、どうしようもない。
はじめてみた瞬間から気になっていた、自分のように、人に近づけないまま、人に近づきたいまま、
逃げるように世界を渡り歩く自分と、酷似していて見ていられなかった。
疑うような視線に、同族嫌悪のような感情がふつふつと湧いた。指を絡めると、手袋越しに体温が感じられて、安心した。
酒場で出遭った瞬間は、あの夜交わした口付けは、ピーチパイの味は、ごちゃごちゃになった感情に蓋をして逃げてきたけれど。
珍しく言葉にならない言葉でサリアはアルヴィンに告げた。

「辛いよ」

アルヴィンは、自分の胸にサリアの頭を押し付けるように、強く、強く抱き寄せた。
苦しめば良いとさえ思った。俺と同じじゃないか、なんて平凡な言葉いえなくて、浮かばなくて、
嫌悪のような愛情が、煮えくり返るくらい腹の中で燃えていた。それでも、吐き出しても仕方が無くて、
裏切るなんていえなくて、裏切らないともいえなくて、もう、どうしたらいいのかわからなかった。涙すら出てくる。
それでも、それでも、




「俺はお前と一緒にいたい、」





馬鹿な脳みそはそんな言葉しか思い浮かばなくて。むしろじゃあ、いっそ死んでしまおうかなんて言い出しかねない勢いで吐き出した。
そんな馬鹿げた願いなのに、サリアは背中に腕を回す。

馬鹿野郎、幸せに出来るなんて、裏切らないなんて一言も俺は言ってないんだ、
それなのにどうしてお前は、この背中に腕を回す。聡明なお前だから判っているだろう、俺が人を幸せになんか出来ないことも、
俺が人を裏切らずには生きていけないことも、それでも一緒にいるっていうのかよ、お前はそんなことができるのかよ、

そういったことをごちゃごちゃに叫んだ、もう何を喋っているのかわからなかった。

サリアは一言だけ、返した。






「だって仕方が無いじゃない」


(あいしてしまったんだもの、)





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