「お嬢様は休んでいただきました。相当お疲れのようでしたので」
「ひどい目にあって帰ってきたら、兄さんが亡くなってるってのはさすがに、な」
「連れ去られた際に、それとなく聞いていたようで、思いの外落ちついていましたが、」
ローエンは目を伏せる。医者と共に、ジュードが歩いてきた。
エリーゼははっとしたように顔をあげ、ジュードに近寄る。
「ジュード!ミラは!?」
ジュードは目を伏せた。医者はまだマシだったと告げるが、
体力の消耗からも、これから数刻が峠だと告げた。医者は気遣うように優しく声をかける。
「皆さんはおやすみください。あとは私が…」
「先生も、休んでください。精霊術を使い続けて、相当疲れているはずです」
「何を言う、君こそ…」
「任せましょう、先生、どうぞこちらへ。」
「ミラ…」
「ミラ君、死んじゃうんだねー?」
ティポの言葉に、ジュードはにらみつけた。びくりと、エリーゼが肩を震わせる。
ジュードはその言葉に悪意が無いと改めて思いなおし、大丈夫、と呟いた。自分に言い聞かせるようだと思いながら。
「さあ、みんなもう休んで」
「わたしも…手伝います…」
「ありがとう」
「門外漢の俺は休ませてもらうよ」
「うん」
アルヴィンはそういうと立ち去り、急いで宿へと向かった。
二階の二人部屋。扉を開くと、サリアは治療術をかけてもらっていた。
「あ、悪い」
「アルヴィン、構わないよ」
サリアはバスローブのようなもの着て、半分ほど上半身ををさらけ出していた。
傷は首から腹部に掛けての大きな傷がメインで、それ以外は太ももに大きな傷があったくらいだった。
ふさがってはいるものの、直ぐに傷を術などで防がなかった所為か、傷口は消せないと医者が説明した。
代金を手渡し、医者は帰っていった。
アルヴィンはどうしてあの時エリーゼやジュードは彼女に治療術を施さなかったのかと考えると今も苛苛が収まらなかった。
「アルヴィン」
「…あ?」
「苛苛してるねえ」
「…そりゃ、そうだろ…」
「エリーゼちゃんや、ジュードくんのことかい?」
「あいつらが、お前に治療術、かけてやってたら…傷口は…」
「気にしないよ。傷口なんて、大したことは無いよ」
「…んな、こと言ったって…」
「確かに、もうドレスは着れないけれど、大丈夫だよ!」
「お前が…大丈夫でもっ俺は…!」
「…?」
サリアが不思議そうに見つめる。ああ、もう、言ってしまえ、脳のどこかで、そんな声がきこえた。
「俺はお前が傷つくと、嫌なんだよ、」
「どうして」
「俺は…っ!…お前が…好きなんだよ…ッ…」
言ってしまった。
言ってしまった。
言ってしまった。
「わたしも、きみのことがすきだよ」
(抑揚の無い、答えだった)
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