依頼などをこなしていたら、時間はすぐに過ぎていった。
そろそろ何か動きがあるだろうか。領主邸へ向かってみる。すると、ジュードやミラも其処に居た。
「サリアさん」
ジュードが微笑んで近寄る。
もう大丈夫なの?と聞いて来る様子は弟か何かのようだとサリアは思いながら、大丈夫だよと返す。
どうやらジュードたちもクレインに動きを尋ねたようだった。
まだ連絡は来ていないため、ローエンを向かわせるらしい。
ローエンは、1日ほどで戻れるらしい。
明日の朝には此処を去るかもしれないのか、としみじみと思った。
ドロッセルが、ミラとエリーゼを買い物へ誘う。
「サリアさんもご一緒にいかがですか?」
兄に似た柔らかい笑みでドロッセルが尋ねる。
でも、サリアはもうカラハ・シャールの店を見回ったし、これ以上懐が寒くなるのは喜ばしいことではない。
いつもタイミングが悪いな、等と思いながら丁寧に断った。ミラは引き摺られるようにして連れて行かれていた。
「(あれ…)ジュードくん、私は、嫌われているのかな…」
「えっ」
「だってミラは引き摺ってでも連れて行くだろう?」
「…いや、サリアさんが嫌われてるわけでは無いとおもうよ。アレだけ丁寧に断られたら、ね」
「そうか…」
ジュードが苦笑する。
引き摺られるのもいやだが、少し残念な気分にサリアは陥った。寂しいわけではないけれど。
ミラたちが街のほうへ去ると、クレインが厳しい顔になった。反乱を起こすつもりらしい。
「戦争になるの?」
ジュードが心配そうな瞳で尋ねる。クレインは少し頷いた。
このままではナハティガルの独裁に、ラ・シュガルとア・ジュール両国の民の命が奪われる。
領主として、民を守るためには、必要なのだとクレインは言った。
サリアは聞きながら、心の綺麗な人だ、とクレインを見つめた。こんな人が、王だったら良いのかもしれない。
クレインは、ジュードの瞳を真っ直ぐに捉える。
「力を貸してくれませんか?」
「…ぼ、僕は…」
「僕達は、ナハティガルを討つという同じ目的をもった同志です」
クレインが手を差し伸べた。優しそうな瞳には、強い意志が垣間見える。
ジュードはちらりとクレインを見つめ、それから手を伸ばした。
とん、
そんな軽い音がして、クレインの左胸には何かが突き刺さっていた。
それが武器だと気付くのは、そんなに難しいことではなかった。
「(あああ)」
旦那さま、クレイン様、どこか遠いところでそんな声を聞きながら、サリアはただ倒れるクレインを見ていた。
心の綺麗な領主様。この傷では、復活は難しいのではないだろうか。そんなことを思いながら。
舌打ちが聞こえた。アルヴィンが銃を構える。
何処から打ってきたのかは矢の飛んできた方向をみれば想像するのは容易かった。
アルヴィンの銃が吼えた。打ち落としたらしい。
その瞬間にサリアは、このことに関してはアルヴィンは関係ないのかもしれないな、何て思っていた。
「早く治療を…」
「う、うん…」
「(あああ)」
ローエンとジュードがクレインを屋敷の中に運ぶ。サリアはどうせ助からないだろうなんて思ってる自分を脳の端に置いた。
(助かって欲しいけれど、こんなとき自分は変に冷静だった)
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