アルヴィンに手を引かれ、自室へ戻る。
さっき買ったものを渡さなければな、とサリアはぼうっとした頭の片隅で考えていた。
アルヴィンはつかつかと早足で部屋へと歩いていく。部屋の扉が閉まる。
アルヴィンは勢いに任せて開きかけた口を一瞬手で押さえ、笑顔を張り付けた。





「こーんな格好するなんて、以外だな」

「(なんか言おうとしてた)そりゃ、するよ」

「…、嫌いなのかと思ってたよ、スカートとか」

「そんなこと無いよ、これでも昔は、」

「昔は?」

「…今よりすごかったから」

サリアは微笑んだ。口に出そうになった昔のことは押し込んだ。
酔っているからと言って、話すべき話じゃない気がして。
アルヴィンはいつもよりわかりやすい嘘に少しだけ戸惑ったが、気付かないふりをした。
それよりも何時もの喋り方よりくだけた喋り方と笑顔が、心地よかったのだ。

「男でも誘惑しようとしてたわけ?」

「んー、別にそんなつもりはなかったけど、でも」

「でも?」



「迎えに来てくれたのがアルヴィンでよかった」

「、なんでー?」





「安心するから」



「…(嗚呼、)」


アルヴィンはベッドにサリアを突き飛ばした。
衝動的に、感情的に、その上に覆いかぶさった。不思議そうなサリアと目が合う。
蕩けたその瞳に、半開きのその唇に、首元でちらりと光る紫に、白くて柔らかいその肌に、欲情する。





「(、だめだ)」





唇に噛み付くように口付ける。
柔らかい感触を味わって、そのまま勢いに任せたくなる。
舌をねじ込むと、逃げるように柔らかい舌が動く。
薄く瞳を開けると、目をぎゅっとつぶって悩ましげに眉間にしわを寄せるサリアがちらり、揺れる。
唇を離すと、酒の後味が口に残る。それから、どうしようもない後悔。
殴られるだろうか、とアルヴィンは自嘲の笑みをこぼした。

「(でも、俺は悪くない)」




子どもじみた言い訳だ。
しかしアルヴィンだって男であるから、安心するなどと言われては深読みをする。
サリアの言い方は、アルヴィンをまるで男性として見ていないかのような言い方で。
そんな言い方をされては、黙ってはいられない。
そんな正当なような、違うような理由が頭の中を流れていく、サリアは黙っていた。
その沈黙が、アルヴィンには苦痛でしかなかった。







「何か、喋れよ」

「…ん、」


思わず素の自分の、ぶっきらぼうな態度で彼女の言葉を促した。
サリアはちらりとこちらを見て、ベッドからするりと抜け出すと、
脱ぎ散らかした自分の服のほうへ歩いていった。
ごそごそとポケットから何かのつつみを取り出し、いまだベッドの上のアルヴィンに差し出す。
そして自分はベッド脇の椅子に腰掛けた。




「…んだよ、これ」

「うん」

「……開けろって?」

「うん」




酔っ払っているのか酷く眠そうだ。
なんだかさっきの口付けのことはなかったことにされている気がして、
アルヴィンは複雑な気分に苛まれながら、小さな紙の包みを開ける。
入っていたのは、シンプルなレザーブレスレット。橙色の石が、小さく光っていた。

サリアが微笑む。

「それ、あげる」

「…は、?」

「おんぶと、手つないでくれたことの、お礼」

「…あー、」



アルヴィンはそんなこと気にしなくてもいいのに、と言いかけてやめた。
何より彼女の笑顔を崩したくは無かったし、歓喜する自分も今ここに居た。
ありがとな、と素直に礼を言って腕につける。彼女は似合うよ、と微笑んだ。






「お前、こーいうこと俺以外にするなよ、」






とっさに出た本音に、サリアは不思議そうに首をかしげた。
うとうととした瞳は、今にも眠りに落ちそうだ。アルヴィンはベッドから手を伸ばし、
おいでと彼女を誘った。ふらふらと揺れながらサリアはベッドにもぐりこんだ。


「アルヴィン、一緒に寝るの?」

「…あー」

「何もしないでね」






そういうとサリアは意識を手放した。
アルヴィンはベッドから出てしばらく考えていたが、
コートとスカーフを取って椅子にかけ、内側から部屋の鍵を閉めると、
もう一度ベッドにもぐりこんだ。







(お前、危機感無さすぎねえ?)






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