カラハ・シャールに付く手前、サリアはアルヴィンの背中で目を覚ました。
「やっとお目覚めかい?お姫様」
身じろぎをするとアルヴィンが背中越しにやれやれ、と笑う。
サリアはやっとアルヴィンの背中にいると理解し、ゆっくりと起き上がる。
「ああ、すまないね…もう離してくれてかまわないよ」
そう言って背中からするりと抜け出すと、サリアは今の状況を確認した。
どうやら少し意識を手放していたらしいことを悟ると、少し自分を恥じた。
そして横目にアルヴィンを捉えると、小さく尋ねた。
「私は、どれくらいの間こうしていた?」
「んー、いや、そんなに長くはねぇよ」
「そうか、本当に申し訳ないことをした、ごめん」
「そんな謝るなよ、俺達の仲だろ?」
「…そうか、そうかもしれないね」
少し微笑んだ。するとアルヴィンは意外そうに少し眼を丸くして、それから小さく笑った。
笑顔のほうが似合うぞ、と口から出かけて、アルヴィンは口を押さえた。無駄な言葉だ。
そんなことを思っていると、ジュードがサリアが起きたことに気付いた様子で、駆け寄ってきた。
「サリアさん!…大丈夫?」
「ああ、申し訳ないね」
「うん…無理しないで、言ってね?」
「そうするよ」
「そうだぞサリア、お前が居なければ誰が料理をつくるのだ!」
「ミラ…」
「はは、ミラさんもありがとう」
「…サリアさん、よかった…です」
「エリーゼちゃんもティポくんも、心配掛けてすまなかったね…ローエンさんも」
サリアは一通り全員に謝り、もう大丈夫と告げた。
アルヴィンはそんな様子を見て、一回も彼女が笑顔でないことに気付いた。
もしかしたら、あの笑みは自分だけに向けられたものなのか。
そう思うと少しだけ動揺してしまって、少し自嘲じみた笑みを浮かべる。
そんなはずはない、と。
カラハ・シャールでは妹のドロッセルが心配そうに兄を待っていた。
徴集された民の命は皆、別状が無いと伝えられた。
ジュードが安心したように息を吐いた。サリアはそれを見ながら、
ジュードは思いつめるタイプなのかもしれない、などと何時もの通り推測を繰り広げていた。
「みんな無事でよかったです」
「では、私達は行くとしよう」
ミラはそう答えて歩き出す。エリーゼとティポは不安そうだ。
アルヴィンは、ガンダラ要塞を抜ける必要がある、と提案している。
要塞など抜けられるものなのだろうか。指名手配の彼らが、サリアは謎に思いながら、
会話を見守る。今聞いても、話の腰を折るだけだろう。
「ガンダラ要塞を、どう抜けるつもりなんですか?」
「押し通るしかないかもしれないな」
ミラの台詞に頭が痛くなる。多分それは少なからず誰でもそうなっただろう。
仮にも要塞を、押し通るだなんて。だがそれは流石に難しいと言われ、クレインが手配すると告げた。
ジュードがサリアの疑問を言葉に、自分達を協力して危なくは無いのかと告げる。
クレインはこれ以上軍との関係は悪化しようが無いとつげ、
アルヴィンの後押しもあってその言葉に甘えることになった。
「(カラハ・シャールにはしばらく滞在できるのか…よかった)」
サリアは付いていくかすら判らないと思っておきながらそんなことを考えていた。
まだ、街の何も見ていないのだ。クレインが優しげな笑みを浮かべた。
「今日はもうお疲れでしょう。部屋を準備させておきます。」
「すまない。世話をかける。…サリア、早めに休めよ」
「え、ミラさん、私もいいんですか?」
「何を言っている。当然だろう?」
「…(ああ…)」
結局、宿代が無駄になるからとサリアだけ遠慮した。
(早く言ってくださいクレインさん、)
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