「ななしさん、」

「あっは、ひゅーばーと、どうした?」

少女の瞳にははらはらと涙。
もうすぐで零れ落ちそうという限界のところでふるふると留まっている。

「あたし、しあわせだなあ…」

よくもまあ、そんな冗談を。

「きみも、しあわせでしょう?」

よくもまあ、そんな質問を。




「あなたは、しあわせなんですか?」

「何いってんの、アスベルがしあわせなら、もう何もいらないや」

「…そうですか」


つらい。つらい。生きていくのがつらいよ。
そういわれているようで目を伏せた。どうすればいいのかわからない。
少女が、兄を慕っていたことなどわかっていたから。
ずっと昔から、見つめていたのだから。


「ひゅーばーと、」

「なんでしょう、ななしさん」

「あのね、あたしつらくないよ」

「(ああ、この人はなにをいう。今にも泣き叫びだしそうではないか。)」

「ひゅーばーとが、いるから」

「(…、ああ)」

「ごめんね?」

「(このひとは、判っている。)ななし、さん」


賢い人だ。僕が何処にも逃げ出せないことを知っている。
永遠に少女を追い続けるであろう瞳を知っている。
そしてそれを、うまく利用するのだ。


「めがね、はずして、ひゅーばーと」

「え、」

「泣いてるの、みられたくないの」


恥ずかしそうに言う彼女をだきしめたくなった。しかし、それは、
あまりにも軽率な行為に感じられた。しかし、手を伸ばしてしまう。

「え、」

「(すみません)」

「ひゅー、ばーと?」

「(眼鏡が、なくて距離がつかめないんです、)」

「…」

「(どうか、今だけは許してください)」


抱きしめた。彼女は抵抗はせずに、ふふ、と微笑んだ。



「しあわせになったらいいのに」






君の涙はあめのよう
(これだから、恋愛はきらいです。せつないだけですから。)
 title/ Shirley Heights

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