ちりちりと心を焦がしていくウイルスのような女だった。
さらさらとさわり心地のいい髪が風に舞っていた。
ベッドの上で女は、天井に向かって手を伸ばしていた。

「なーにしてんの?」

「うそつきさん」

「…其の呼び方、やめね?」

「どうして?」


女は小さく笑った。伸ばした手は、そのまま。


「失礼でしょ?」

「うそつきにうそつきって言って何がわるいの」

「俺は、」

「言い訳はいらないわ」

女は柔らかい口調で言い放った。その冷たい言動に、
またちりちりと心が焦げる。憎いのではない、痛いのだ。

女の言葉が、何十にも重ねた、
自分を守るための装備を打ち破って心を撃つのだ。


「嫌われてんなー俺」

諦めたように肩をすくめて見せると、女はすっと起き上がった。
そのまま無言で自分が座る椅子の前まであるいてきた。
少し長めのキャミソールからのびる白くすらりとした足に、欲情した。
女の白い、細い腕が俺の手首をつかんだ。

「何、ななしちゃん」

つかつかと歩き出す。
ベッドの前でとまって、ベッドに向かって俺を突き飛ばした。
柔らかい感触にふわっと落ちていく。

「名前で呼んで欲しい?」

ちりちり。

「…ああ」

ちりちり。

「………アルヴィン」

ちりちり、焦げていく。
脳の回路も、ちぎられていく。
はぎとられて、焦がされて、ちぎられて、丸裸にされる。

たちの悪いウイルスのように、体中をかけめぐる。


「欲情したよ、ななし」


諦めたようにそう告げると、楽しそうに笑った。
そしてふっくらとした唇が、俺のかさついた唇に触れた。

熱くなる身体。唇を貪るようにひたすら求める。
それに答えるように熱い舌がちろりと誘う。
捕まえたくて、その舌を拘束しようと女の後頭部を押さえると首に回される手。
ああ、落ちていく。

唇を離すと、色づいた頬。悩ましげに伏せられたまぶたにキスをして、
あらわになった足を撫ぜる。ぴくりと、女の腰に緊張。

艶かしい白い足に口付け、足の先を口に含む。

「ん…」

女から、抑えたような声が漏れる。それすらも、自分を興奮させる。
足から上へ、キャミソールを捲くって白い腹部に口付ける。

「ななし」

名前を呼ぶと、手を伸ばしてくる。其の手に指を絡め、もっと上へ。
腹部から首筋にかけて舐めあげると、ひっ、と喉が鳴る。

「アル、ヴィン、」

「ん…」

「えっちなことしたい?」

「…いーや?」

余裕がある振りをした。女はお見通しで、ふふ、と微笑んだ。

「うそつきさん」

ちりちり。

「ななし」

「おいで、アルヴィン」

ちりちり。

「手加減、できねーぞ」

「いつもでしょう?」

下着を脱ぎ捨てた。
融けるような女の秘部に、自身をおさめる。

「ん、ふぅ…あ…」

「…ななし…」

それは、ゆっくりと、神聖な儀式を行うかのような行為だった。

「ん、あっ、んん…」

「もっと声、聞かせて」

「あ…ん、はぁ、…んっ」

「ななし」

「あっ、やっ、あっ…ひゃっあ…んっ」

徐々にスピードをあげると、声が艶を帯びていく。
同時にひくひくと中で自身を締め付ける力が強くなる。

嗚呼、限界だ。

「ななし……っ」

「ひぃ…あっ…やぁっ…」

「…っふ…」

「…ふぁ…ん………ふぅ…」

中に欲を吐き出して、ぐったりと倒れこむ。

「ななし…」

「ん、アル…」

「可愛い」

「うそだね」

「…ななしさん、雰囲気ぶち壊してんぞ」

「ふふ」


ウイルスのような女だった。
さらさらとした髪の毛を梳かしながら、禁断の言葉を呟く、




「あいしてる」






やさしく殺して、世界をあざむいて

(うそつきは、だれ)
 title/ Shirley Heights

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