「アルヴィン」

「なーに、ななし姫」

「姫って年でも無いよ」

「細かいことは気にすんな」

「うん」

女はマイペースだった。男は、この女が苦手だった。
そのマイペースに、自分の心が、自分の計算がかき乱されて、
年は変わらないはずなのに純粋な子どものような女は、
自分が汚い大人でも純粋な子どもでも無いことを知らされるようで、
中途半端だといわれているようで、嫌いだった。

「で、どうしたの」

「これ、植えたいの」

「…なにそれ、種?」

女の手のひらを見ると、小さな粒がいくつか転がっていた。
女はうれしそうに頷いて、つんつんと指で押した。

「何ができるかわからないの。」

「おいおい、何の種かもわからないのかよ」

「ローエンさんがくれたの」

「ふーん」

「一緒に埋めない?」

正直面倒だったが、断る理由も見つからない。
でも、何故、自分なのか。
この女に自分とかかわる利点など無いはずなのに、
深読みをしてしまう。女の微笑みは、相変わらずなにを考えているかわからなかった。

「じゃ、お手伝いしましょうか、ななし姫を」

「ありがとう」

「で、どこに埋めるの?」

「うーん、どこがいいかな?」

「(決めてないのかよ)」


適当な場所を見つけて、二人で埋めた。
柔らかい土を被せて、これでおしまいだと手を叩く。
その一部始終を見ていた女は、土を見ながら呟いた。

「お父さんがね、死んだんだって。」

どきりとした。横顔は、何も変わっていない。
ただ、土を見つめて無表情だった。

「…そうか」

「うん。私が生まれたときにお母さんは死んじゃったから、ずっとひとりで育ててくれたんだけど。」

「(なんで俺に話すんだよ)」

「…アルヴィンなら、聞き流してくれるかなって思ってさ」

「あれ、それヒドくない?」

「いい人だったんだよ」

「…そ」

「お父さん、私の本当のお父さんじゃないんだ。なのに本当のお父さんみたいに接してくれた。凄い人だよね。」

「…」

女はどこまでもマイペースだった。
泣きもせず、笑いもせず、ただ淡々と親の死を受け入れているようにみえた。

「悲しいな」

女が、呟いた。
其の声にも抑揚が無く、そこで男は気付いた。
女が、悲しみを表現する方法を持ち合わせていないのだと。
だが、それを知ったところで男はどうすることもできなかった。
黙っていると、女が立ち上がった。

「アルヴィン」

「ん」

「花、咲くかな」

「…咲くさ」

「…」

「さ、ななし姫、宿に戻りましょうか」

「うん」









きっと花になる

(いつか、花になる) title/ Shirley Heights

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