それは、最愛の人との思いがけない再会だった。



「ヒューバート」




少女の唇からは美しい音色がつむがれる。
それが己の名前だと認識したヒューバートは、目を細める。


「どうしました?」


柔らかく答えてやると、少女は目を細めた。

「名前を、呼んで」

そう、可愛らしくおねだりをするものだから、
ヒューバートは少し照れながらも、彼女の名前を呼んでやる。





「ななし」


ななしはまた、うれしそうに目を細める。
ヒューバートが手を伸ばす。余りにも簡単に彼女の柔らかい髪に届く。
優しく撫でてやる。ななしは細い腕を伸ばしてヒューバートに触れようとする。
しかし、届かない。彼女は恨めしそうに自らの手と足に付いた枷をにらみつけた。



「きっと助けます、ななし」

「ありがとう、ヒューバート」



ヒューバートは今すぐにでも助けてやりたい気持ちを理性で抑えて、立ち上がった。
今はなすべきことがある。そのあとでも遅くは無い。
何より、ななしに血なまぐさい戦闘など見せられるものか。彼女は無垢なのだ。
それゆえに、こんなところに閉じ込められた。
怒りを含めたこみ上げる思いを全て飲み込んで、ヒューバートはななしに向き合った。


「待っていてください」


そう言うと背を向け、歩き出す。
檻の中から見つめる視線はヒューバートが見えなくなるまで背中を貫き続けたが、
一度も振り返らなかった。








「もう、だめなんだけどな」

少女が諦めたように小さく笑ったのを、ヒューバートは知らない。







美しい吐息

(せめて、きれいにおわかれ) title/ Shirley Heights

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