「みょうじさん、来週一緒にお化け屋敷行きませんか」
「え?」


入学してからしばらく経つ。いつの間にかみょうじさんを目で追うようになり、それが恋だと気づいたのはほんの数日前。

吊り橋効果というものがある。スリルによる緊張感を脳が恋愛感情によるものと混同してしまい、揺れる吊り橋を一緒に渡った人物に恋をしてしまう、という理論だ。みょうじさんに僕を好きになってもらうきっかけとしてこの手段は有効であると判断し、実行することにした。
現代、身近に吊り橋など存在しないが、他の方法でスリルのある体験をすることはできる。そこで辿り着いたスポットがお化け屋敷だった。
いつもより早い脈拍は彼女には聞こえていないはずだ。眼鏡を片手で直し、平静を装いみょうじさんを誘うと、彼女はどこかそわそわしていた。



「あ、あの、竜ヶ崎くん。お化け屋敷ってことは…遊園地のお誘い?」
「はい」
「えっと…2人で、かな」
「もちろんで…!?」



情けないことに、みょうじさんの指摘で自分の作戦の穴に気づく。
そうだ。好きになってもらう以前に、遊園地に2人で行くということはこれすなわち、デート、になるのではないか。



「あ、いや、すみません、これは…そういう意味じゃなくて、」



将来的にはそういう意味に持っていきたいけれど。
あたふたと慌てる僕を見て、緊張した面持ちだったみょうじさんはくすりと笑った。ああ、僕の好きな彼女の表情だ。



「竜ヶ崎くんのそんなところ初めて見た」
「……すみません、見苦しいところを」
「ううん。新鮮で嬉しかったよ。知らない竜ヶ崎くんが見れて」
「え、」
「私で良ければ、一緒に行ってください。もっと竜ヶ崎くんのこと知りたいな」



どうやら、理論に頼らなくても望みはありそうだ。


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -