部活中、マネージャーとして動いているとどうしても髪が邪魔になってしまう。だからいつもコウちゃんに髪をしばってもらうのだ。自分ですればいいと言えばそうなんだけど、いかんせん不器用な私はうまくできない。
今日は今までしたことが無かったポニーテールにしたのだけど、部活前に気づいて褒めてくれたのは真琴先輩と渚ちゃんだった。
ちらりとプールを見ると、案の定気持ち良さそうに浮かぶ遙先輩の姿。
まあ、ここで見てもらおうとすることが間違ってるかな。
遙先輩の中で水に私が勝てるはずがない。うぐぐ、ちょっと悔しい。そんなところが素敵なんだけど。




告白してから、遙先輩は一緒に帰ってくれるようになった。
とくに「俺も好き」とかはっきりとした返事をもらえたわけじゃないけど、こうやって私のわがままに何も言わず付き合ってくれるというのは、嫌じゃないって意味だと解釈してとことん付き纏っている。



「…なまえ、髪」
「え?ああ、今日もコウちゃんにしてもらったんです!初めてポニーテールにしてみたんですけどどうですか?」



やっと気づいた!でも気づいてくれただけで嬉しい!
ぱあと明るくなる私の表情とは対象に、遙先輩の口はへの字に曲がる。え、なんで。



「先輩?」
「それ、真琴達も見たの?」
「はい、部活前にしてもらったので。真琴先輩も渚くんも似合うって褒めてくれたんですよー」
「……」
「渚くんは項が綺麗ってまで言ってくれて……って、先輩?」



隣にいた遙先輩が急に足を止めるから、振り向こうと私も歩くのを止めた。
後ろを見ようとしたけど、急に肩に手を置かれて体が硬直してしまう。
肩からじんわり、先輩の熱が伝わってきた。



「は、遙先輩…!?」
「じっとしてろ」



な、な、なんか声が近いんですけど!
耳元で囁かれ、心臓が今にも爆発しそうになる。息が!息がかかってます先輩!
遙先輩の右手が肩から離れ、纏められた髪に触れるのが分かった。
どうすればいいか分からないし現状についても理解が追いつかず、私はただ遙先輩の行動を受け入れていた。



「あの、遙先輩…なんっ!?」



先輩に問いかけようとした瞬間。首の後ろに柔らかさを感じたのも束の間、小さな痛みが走る。え、なにが起こったの。
平然とした顔で隣に戻ってくる遙先輩に聞いてみても、「別に何も」と明らかな嘘が返って来た。



「ポニーテール気に入りませんでした?」
「そうじゃない。…まあ、悪くないと思うけど」



悪くないと思うけど。その一言が私の頭の中で何度も何度もこだまする。



「それって!似合うってことですか!すごく可愛いよってことですか!!」
「そこまで言ってない」



調子に乗るとぴしゃりと言い返されてしまった。
どちらにしろ、遙先輩のその言葉は私にとって嬉しすぎるものだった。







「コウちゃんコウちゃん!昨日ね、遙先輩にポニーテール褒めてもらったの!」
「遙先輩が?珍しいわね。良かったじゃないなまえ」
「コウちゃんのおかげだよー!いつもありがとう!それでね、今日もポニーテールにしてもらいたいんだけど…」
「いいわよ」
「ありがとう!」



翌日、昨日の出来事を部活前にうきうきとコウちゃんに話し、椅子に座った。
昨日と同じように櫛で髪を一つに纏めた彼女の手はぴたりと止まる。



「?どうしたのコウちゃん」
「……なまえ、昨日遙先輩に何かされた?」
「うーん、されたと言えばされたよ?一緒に帰ってたら急に後ろに来て髪触られたかな。その後首の後ろがちょっと痛かったんだけど、何したかは教えてもらえなかったの」
「それだ」
「?」
「……しばらく髪全部纏めないほうがいいかもね」
「えーなんで!?せっかく遙先輩に気に入ってもらえたのに!」
「ポニーテールは部活じゃなくて遙先輩の前だけでしろってことよ」
「??」
「……痕、ついてる」
「痕?なんの……!?」



うっすら勘づいてしまった私の顔には熱が集まった。






「遙先輩!首のキスマークについてなんですけど!」
「え!?キスマーク!?ハルちゃんなまえちゃんにキスマークつけたの!?だいたーん!」
「(あの馬鹿……!)」


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