友人から聞いた話。今日はクラスメイトの葉月くんのお誕生日らしい。
ただのクラスメイトならば「そうなんだ、おめでたいねー」で終わっていただろう。だけど、彼は私が今想いを寄せている相手だったりする。そんな人の誕生日を「おめでたいねー」の一言で終わらせて落ち着けるわけが無い。

あーもう、プレゼントとか準備してないや。葉月くんはどういうの喜んでくれるのかな。でも彼女じゃないのにプレゼントって変かな。まず会うことも難しいか。だけど、せめて、



「……おめでとうって、言いたいな」



8月になり、学校も夏休みに入っていた。生憎夏期講習は無い日だし、メールアドレスも電話番号も知らない。葉月くんを自然に祝える環境には置かれていなかった。
うわあ、そんなことを考えてたら無性に彼に会いたくなってしまった。
葉月くん、学校にいるかな。微かな希望を胸に、制服に腕を通して家を出た。






プールからはバシャバシャと水の音が聞こえる。良かった、水泳部いるみたい。
衝動的に来てしまったはいいけど、これからどうしよう。部活が終わるまで待っていようか。
そわそわする心境は体にも伝わり、意味も無くプールの近くをうろうろ歩き回っていた。駄目だ、これじゃあ不審者じゃないか。制服は着てるけど、変な人と思われてしまう。ああもう、走ったわけでも無いのに心臓がばくばくする。



「あれ、みょうじさんだ!おはよー!」



どくり、心臓が一際大きな音を立てた。
声の降ってきた方に視線を向けると、プールサイドのフェンスに張り付き葉月くんがこちらを見ていた。わ、水着姿。
顔つきからは想像できない筋肉に頬が紅潮してしまう。



「あ、は、葉月くん。おはよう、」
「おはよう!どうしたの?みょうじさん部活入ってたっけ?」
「えと……忘れ物!学校に忘れ物しちゃって、取りに来たの」
「そっかあ。暑いから熱中症に気をつけてね」
「あ、ありがとう」



口の中が異常に渇いてしまうのは、多分炎天のせいだけじゃない。
葉月くんは「じゃあね」と手を振り部活へ戻ろうとした。ああ、待って。



「葉月くん!」
「ん?」
「部活、頑張ってね」
「うん!ありがとう!」
「あと、あの、」
「?」
「……お誕生日、おめでとう!」



プレゼントは用意してないし、ただのありきたりな一言だけだけど。どうしても直接届けたかった。
葉月くんは一瞬目を見開いた後、どこか照れ臭そうに笑って大きく手を振ってくれた。



「ありがとー!すっっごく嬉しい!!」



向日葵のように素敵な笑顔が咲き、私もつられてはにかんでしまう。
すぐに葉月くんは部員さんに呼ばれてしまい、大きな声で挨拶とお礼をもう一度添えてフェンスから離れていった。
それを見届けてから踵を変え、学校を出ようと歩みを進める。ゆっくり歩いていた足はだんだんと速くなり、いつの間にか全速力で走っていた。

葉月くんが喜んでくれた。私だけに、あの笑顔を向けてくれた。
それが本当に嬉しくて、にやついてしまいそうになるのを抑えさらにスピードを上げる。
夏の空は、さっきよりも高く鮮やかに色づいているように見えた。



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