最近、ハルは上の空だ。
話しかけてもまともに聞いてないし、授業もしっかり出席している。
水泳部が発足できたことが要因かと思いきや、そうでもない。
「ハル」
「……」
また見てる。
机の上に頬杖をついて、一点をぼーっと見つめる幼馴染。彼の視点の先には1人の女の子。
「ハル、またみょうじさんのこと見てたの?」
「…見てたんじゃない、たまたま視界にあいつが入ってくるだけだ」
「(自分で入れてるくせに)」
やっと会話のキャッチボールに成功したと思えば、返ってきた言葉に苦笑してしまった。
たぶん無自覚なんだろうなあ。
今までずっと水に夢中だったハルがこんな風に恋をしているところなんて初めて見るから、とても新鮮だ。
みょうじなまえさん。いつも笑顔を絶やさない、可憐な雰囲気を持った女の子。
可愛い子だよねなんて言ってしまったときのハルの顔は忘れられない。
「そういえば、今日小池休みだよな」
「それがどうかしたか」
「今日の日直、みょうじさん1人になっちゃうだろ。何か手伝ってあげたら?」
「だから俺は別に、」
「あ、ほら、黒板消そうとしてる。みょうじさん上まで届かないんじゃない?」
黒板消しを持ち格闘しているみょうじさんを見て、ハルはすぐさま立ち上がり黒板の方へ歩いていった。
手伝う旨を伝えたのか、ハルに話しかけられたみょうじさんは花のような笑顔を彼に向ける。
「わかりやすいなあ、ハルったら」
耳まで真っ赤にして黙々と作業する幼馴染を遠目に、俺は独り言を零した。
「俺もみょうじさんが好きなんだ」
咄嗟に言ってしまいそうだった言葉に、心の奥で鍵を掛けた。