04

入部後のしばらくは機材や写真について学び、先輩たちについてもらいカメラに慣れていった。後はほとんど自分の好きなように活動していいらしい。
おかげで昨日までは写真部に精一杯だったから、実際、私の水克服大作戦(葉月くん命名)(そのまんまだけど)は今日から始まるのだった。



「……なまえ、部活始まるんだけど」
「いってらっしゃい」
「いってきまー……じゃない!今日からやるって言ってたんだから、ほら行くよ」
「やっぱり明日から頑張る」
「そう言っていつまで経っても来ないでしょ」
「じゃあ後から行く」
「そのまま帰るの目に見えてるわよ。はい頑張ろうー、れっつごー」
「うわあああああ」
「やるって言ったのなまえでしょ、最初から諦めないのー」



あの時は勢いで頑張るなんて言ったものの、いざとなったら尻込みしてしまう。
私の言い訳なんていとも容易に跳ね除け、コウちゃんは私の背中をぐいぐい押してきた。




そんな作戦初日から数日後。



「なまえー、ほら、水面に太陽が反射して綺麗だよー」
「10秒が無理なら5秒でもいいからさ、こっち向いてみてよ!」



プールサイドの隅で、フェンスと向かい合わせになり体育座りする私。膝を抱える手は震えが止まらなかった。
背中越しにコウちゃんや葉月くんが声を掛けてくれているのは聞こえている。聞こえているけど、振り向けない。



「しかし未だにプールを見ることさえできないとは……相当ですね」
「まあこっちに上がれただけでも成長したわよ」
「最初はプールサイドに入るのも出来なかったもんねー」
「前途多難だな」



そう、最初はフェンスの向こうにあるプールを想像しただけで足が竦み、コウちゃんの背中にしがみついたまま動けなかった。なんとか目を瞑ったまま手を引いてもらいプールサイドに辿り着いたけど、近くなった水の音は恐怖を増長させてプールを見るには至らなかったのだ。
入ったばかりという同じく水嫌いな竜ヶ崎くん。彼は泳げなくとも水に入ることは出来るから、いい理解者にはなってくれなかった。



「ご…ごめんなさい……」
「まあ始めて1週間も経ってないしさ。1つステップアップ出来ただけでもすごいよ」



膝に顔を埋める私に近づき、橘先輩は頭をぽんぽんと軽く撫でてくれた。優しくて涙出そうになるよ……。
はあ、本当に克服なんてできるのかな。








prevnext