01

水が怖くて仕方なかった。
沈んでしまえば何も見えない。何も聞こえない。息ができなくて、思うように動くこともできない。
彼らに出会うまで、私にとって水は恐怖の対象以外の何物でもなかったのだ。





「なまえ部活決まった?」
「うん、写真部に入ることにしたよ。コウちゃんは?」
「わたしは水泳部のマネージャーやることにしたんだ」
「え?この学校に水泳部無かったよね?」



昨年、受験生の時期。進学先を決めるためにこの学校のパンフレットも見たけど、部活の欄には水泳部の文字が無かった記憶がある。



「うん。この前できたばっかりなの」
「そうなんだー。水泳かあ…」
「どしたの?なまえ泳げない人?」
「いや、泳げないっていうより…それ以前に水自体苦手で」
「え!そうなの!」
「「わっ!!」」



私とコウちゃんの間に入ってきた声に、2人で驚いてしまう。
高めの声の正体は男子生徒だった。ふわふわした髪の彼は、ネクタイと上履きの色からして同級生のようだ。



「水が嫌いなんて、ハルちゃんが聞いたらびっくりしちゃうね。その前に興味を示すかもわかんないけど」
「びっくりしたのはこっちの方よ…。どうしたの渚くん」
「ごめんごめん。江ちゃんがいたから声かけようと思って」
「だーかーら!コウって呼んでってば!」



どうやらコウちゃんの知り合いらしいナギサくんは、私の顔を覗き込んでくる。



「でも水が嫌いなんて、なんか可哀想だね。僕たちで良かったら克服のお手伝いしようか?」
「え?いや別に、今でも何とかやっていけてるし」
「遠慮しないの。こうやって知ったのも何かの縁だし、この機会に水嫌いを治しちゃおう!」
「え、ええ!?」
「はい、そうと決まれば早速レッツゴー!」
「どこに!?」



無茶苦茶な理由をつけて手を引かれるけど、あまりに色々唐突すぎて頭がついていかない。コウちゃん助けて!








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