聞こえるだけの世界

ボンゴレ本拠地、イタリアを離れての長期任務。恭弥は長年の部下の哲だけを連れて、遠く離れた地でのんびりと時間を持て余していた。そしてその間に現地調査や視察などの簡単な仕事をこなしていた。

哲には綱吉から事情を説明してもらい今回の任務について来てもらうことにした。恭弥自身は一人でも問題無いと伝えたのだが、綱吉が時には急を要する連絡もあるだろうからと音声通信可能な部下として哲に同行してもらう事にしたのである。
勿論その事に哲は異論など無くて、むしろ恭弥の声の出ないその状況を心配していた。任務前には綱吉に言われ嫌がる恭弥を連れて病院に向かった。原因はやはり誰もが心の隅に可能性として考えていた精神的な何かによるものだった。
哲は第一に跳ね馬、ディーノの事を頭に浮かべたが恭弥の『あの人には知らせないで。心配するだろうから』という筆談にその可能性が無い事を知った。医者は恭弥自身には伝えなかったが哲にだけこんな事を伝えていた。

精神的なショックはそれを取り除く事の出来る相手に出会えばきっとなくなるはずだ、と。

つまりは普段から人前では素直になれない恭弥にはショックな出来事があったのだ。けれどその何かは本人以外誰にも伝えられて無くて、部下であってもプライバシーには深く関わっていない哲には分からない事なのだ。
哲に分かることは恭弥のその何か取り除いてあげられるのはディーノしかいなくて、ディーノの前でしか素直になれない恭弥はずっと一人で何かを我慢しているという事だけだった。だから幾度か恭弥へディーノに伝えなくていいのか促したのだが、その全てに恭弥は首を振った。
哲は仕方なく何も言わずに恭弥のこれからのサポートにまわることにしたのである。

イタリア本拠地から遠く離れた土地、そこで療養も含めた任務が始まって数日。恭弥自身は気がついていないようだったが僅かながらに変化を見せていた。
音は聞こえるが声を発する事の出来ない恭弥はとにかく何処か遠くを見ている事が増えたのである。きっと何かを考えているのだろうが、哲には恭弥の考えていることの全てを理解するのは到底無理だった。
ヒバードはどこか遠くへ行ってまた長いこと帰って来ていないのだろうか、哲は窓からじっと外を見つめる恭弥にそんな事を思った。小動物を愛する恭弥にとってヒバードは最も長いこと一緒にいて、かなり可愛がっていたのだと思える。
声も出ないヒバードもいないじゃ寂しいのではないだろうか…哲は一人そんな事を思っていた。

任務に出てから何日か経った頃。始めは前の様に暴れることの出来ない書類中心の任務に苛々していた恭弥だったが、最近ではその苛々は減りつつある。それはあまりの恭弥の不機嫌さ加減に哲が我慢できず綱吉へ報告をしたからである。

「簡単な仕事でいいから何か任務を…」

その哲の言葉に綱吉は勿論言葉を詰まらせた。言葉の喋れない部下を敵地に送り込むなんて気が進まないからだ。しかも相手は雲雀恭弥だ。言葉が話せてもいつも自分の戦闘欲求のために勝手に敵に突っ込んで行ってしまう。声があった時の事を思い出せば敵を挑発ししていたことしか思い出せない。
怪我をする事は多くても重傷を負うことは少なかった。

としても、としてもだ。

綱吉には恭弥を活動的な任務に行かせる気はしなかった。恭弥に何かあっては困るのだ。ディーノに黙っていると約束した以上、せめて何もない状態でディーノを恭弥に会わせてあげたかったのである。
久しぶりの再会がベットの上、病院ではディーノに怒られてしまいそうだ。ディーノが恭弥を好きだと、愛しい存在だと感じてるのは痛いほど分かった。だから悲しい思いはさせたくなかった。

しかし数日後にガッシャンガッシャン物の壊れる音と共に報告の電話をしてきた哲に限界が来てるのだと感じて、弱小マフィア相手の任務を恭弥にまわすことにした。
次の日にもらった哲からの報告では恭弥はかなり機嫌がよくなったとの内容だった。
少しくらいディーノを想って落ち込んでいるのかと思えば全然そんな事はなくて、綱吉はなんだかなぁと頭を悩ませた。

雲雀恭弥、その真意は理解しずらくてきっと恋人のディーノにしか色々理解できないんだろうなぁと思った。


そんな雲雀さんを理解しているディーノさんはすごいって事!


聞こえるだけの世界、気持ちが渦巻いて

[ 6/22 ]

[] []



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -