つよがり

「もう、いない…?」

ディーノは恭弥の書いた言葉を声に出して読む。ただし疑問符を付けて。
それは理解を拒む内容だったから、ディーノは信じたくなかったのだ。無意識に信じることを拒んでしまっていたのだ。。

「"もういない"ってどうゆうことだ、」

この先の真実、それを恭弥自身に言わせるのは少し酷にも感じたが、ディーノは確かな答えを聞くまではこの事実を信じたくはなかった。この事実に一番悲しんでいるのは恭弥なのに、強がっていることは心のどこかで分かっていたのにディーノは敢えてそう口にしていた。

『あの子は死んでしまったんだよ』

ディーノの言葉に時間を空けることなく返事が返される。恭弥の指はなんの躊躇いもなくなめらかに滑っていた。
白いメモの上を走るペンも、そのペンを動かす指もなんともないのに、恭弥の表情だけは違っていた。悲しくない、悲しくない。そう自分に言い聞かせて何かを我慢している表情をディーノは見逃さなかった。
少し俯いていたいた所で恭弥の感情を読み取れないなんてことはなかった。

恭弥とはもう随分と長い時間を共に過ごしてきた。出会った始めの頃は感情表現が上手くできない恭弥をただの無感情な人間だと思っていた。けれどそれはディーノの勘違いで、恭弥はただ単に不器用なだけだと気がつく頃には一年の時が過ぎようとしていた。
恭弥は口には出さなかったけれど、あの子を、ヒバードをどれだけ大切にしていたかは傍で見ていたディーノが一番理解していた。

だから、

恭弥が傷ついてない訳ないのに。

それなのに。

本人に一番言いたくないことを言わせてしまった。

「ごめん、辛いこと言わせた」

一言告げて恭弥に一歩近づく。俯く頭部にゆっくりと手をおろす。

『そんなことない』

そう書こうとした恭弥の手をもう片方の空いた手で止めて、そのまま恭弥の手の指をぎゅっと握りしめた。
すると恭弥は顔を上げて、自然に視線がぶつかった。悲しむ姿なんて見せたくない、そう思うせいか恭弥はぐっと唇を噛みしめていた。
ディーノはその行動に、少し赤くなり始めている目の前の瞳に胸が締め付けられる様に痛かった。

「お前あいつのことすごい可愛がってたもんな。本当は一番悲しいよな」

だから、あんなこと言わせてごめん、そう続けてそのまま恭弥を抱き寄せた。

(分かってたのに傷つけるなんて、最低だな俺)

「悲しいなら悲しいって言え。泣くのが恥ずかしいなら俺が胸貸してやるから、誰にも見せたくないなら俺の前だけでは素直でいようぜ。

 大事なものがなくなったら俺も悲しいし、泣くこともある」

力をこめて抱きしめれば、恭弥の肩にまわした腕に遠慮がちに腕が伸びてきてディーノの服の裾を掴む。しばらくして小さな嗚咽が聞こえ始めた。


強がらなくていい、弱さを持っているのはお前だけじゃない


俺にもお前にとっても大切な存在だったんだ

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