窓から見える空

ごつ、と音がして目が覚めた。目を開くと自分の視界にはベットが目に入り、そこに乗せられていた足がずるりと落ちるのを確認できた。

でも、なぜ?

ディーノにはベットで寝た記憶はあっても、身体は床に、足はベットになんて不可解な体勢で寝た記憶はなかった。しかもお腹の辺りがじんじんと鈍い痛みを感じていた。何が起ったのか分からないままにそういえば、と思って恭弥がいるはずのベットを見れば凄く不機嫌な恭弥と目があった。
何おこってるんだ、と尋ねれば恭弥はベットから降り立ち床に寝そべる形に近いディーノをまたいで見下ろした。

「恭弥、?」

ディーノが尋ねるが恭弥は何も発さず、傍にあったサイドテーブルに近づきメモにペンを走らせた。ディーノはその様な場所に何故メモがあるのか分からなかったが、恭弥の行動から草壁に聞いたことを思い出した。
恭弥は今声がだせない、そのことをディーノは忘れていたのである。

『苦しかったから』

恭弥が戻ってきてディーノの目の前に一枚のメモを出してくる。そこには一言そう書いてあった。

「えぇと、ごめんな?」

ディーノが謝ると恭弥はもういいよ、とでも言う様にディーノに手を差し伸べ起き上がることに協力する。ディーノが起き上がると恭弥はすぐにディーノを離れ窓の近くへ行ってしまった。
少し窓を開けて室内に空気を取り込む。それと同時に空を見上げた。

窓を開けておくのは恭弥の日課だった。それはずっと一緒に過ごしてきた恭弥にとってはいなくてはならない存在、それほど大切な存在になっていたヒバードのためだった。時折ヒバードは二、三日帰って来ないことがあった。
偵察で飛んでいって貰うこともあったが、何があっても必ずヒバードは帰って来ていた。必ず。
でももうそれは過去の話になっていた。いくら窓を開けておいても、その名を呼んでも帰って来ることはない。特徴のある声で懐かしい校歌を歌うこともなければ、名前を呼ばれることもない。

それでも窓を開けてしまうのは癖だった。

いつか帰ってくる気がするのだ。いつもの様に飛んで、いつものように名前を呼んで。

「ヒバード帰ってきてないのか?」

ずっと窓の外を悲しげな表情で見上げる恭弥にディーノは問いかけた。恭弥がどれだけヒバードを大切にしていたかは、一番傍にいたディーノもよく分かっていた。草壁はディーノに何かあったみたいだ、とは告げたがその原因は分からないと告げた。
ディーノはそんなことを思い出して恭弥のこの症状の原因を考えた。ヒバードがいなくなって声が出なくなった。大袈裟に感じるが、ヒバードがいなくなったことでストレスが溜まったとかなら、ヒバードを大切にしていた恭弥ならありえるかも。なんて思った。

(恭弥はそんな弱くねぇか、)

同時にそんなことも思いながら。

『あの子はもういないよ』

またメモに何かを記し始めた恭弥にディーノは近づいて内容を読み取る。
恭弥が淡々と書き綴ったそれはシンプルな先程のメモと何一つ変らないのに、なんだか悲しく見えた。


会いたいなんて望んでも叶わないんだ

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