横顔

草壁から恭弥の事情を聞いたディーノは、教えてもらった恭弥の部屋へ向かうことにした。恭弥の部屋は本人の希望から小さな屋敷の一階の一番奥にあるという。

長い廊下を真っ直ぐ進むだけだから迷うことはないですよ、と草壁は余計な言葉を付け足してディーノに告げた。
方向音痴ではねぇよ? 、とディーノはすぐ返したけれど、草壁の眉間にはちょっと皺が寄って苦笑されてしまった。

「此処か…」

ディーノは真っ直ぐな廊下を迷うことなく目的の部屋へと辿りついた。しかしその道のりは意外にも過酷で、何度転んだか分からないディーノは直したばかりの身なりがすでにぐちゃっとなっていた。

コンコン、

控えめにノックをして声を掛ける。

「恭弥、俺だ…入っていいか?」

中からの返事はない。ディーノは恭弥が声が出ないことを先程草壁から聞いて理解していた。しかしながら声を掛けたのには理由があった。
急に入ってまたさっきの様に逃げられてしまってはたまらないと思ったからだ。
此処に来るまでも長い追い駆けっこをしてきて、まだ昼前だというのに身体はくたくただった。出来ればこれ以上体力は使いたくなかったのだ。

「入るぞー」

中から何もアクションが無いと言うことは入ることに問題はない、ディーノはそう解釈して再度声を掛けた。今度は入ることを宣言して。
キィと扉特有のなりやすい金属音を立てて扉はディーノの力のままに動いた。初めてみる室内はボンゴレにある恭弥の自室とあまり大差はなく、違うところと言えばこっちの方が幾分か家具が少なくさっぱりしていることだった。
配置にもあまり変化はない。ぐるっと見回してディーノは恭弥の姿を探した。

シンプルなベットに黒い固まりを発見する。近づいて顔を除きこめばそれは間違いなく恭弥だった。

「恭弥ー、きょーやー」

耳元で静かすぎず大きすぎない声で名前を呼んでみた。しかし恭弥には起きる気配はなくて、耳元を近づけてみると規則正しいすーすーと寝息が聞こえるだけだった。

「恭弥…お前さっきの態度でこれって…」

恭弥のことが心配でここまで追いかけてきて気になって気になってしょうがないから部屋まで来たというのに、あんなに必死に逃げていた恭弥はその行動が嘘であったと考えられるほどに気持ちよさそうに眠っていた。
ディーノはガクリと肩を落として片隅にしゃがんだ。

「心配して来たってゆーのによー」

恭弥が寝ていたことに始めは呆れたディーノであったが、幸せそうに眠る姿に何故か安心してしまった。そしてそんな恭弥を見ていたディーノも安堵からか少しずつ睡魔がやってきて、瞼はだんだん重さを増していた。

「俺も寝るか」

何故かディーノはそんな結論に至って上着を近くの椅子に掛けで恭弥の隣に横になった。更に少し狭いベットから落っこちたくなて、ディーノは久しぶりに恭弥を抱きしめ眠りについた。
恭弥の短い髪にくすぐられ少し寝にくかったが、今はそんなもの関係ないくらい恭弥が愛しく思えた。


久しぶりに感じた温もり

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